2003年03月14日
日本化学会の第83春季年会での講演「特別企画」について
【カテゴリー】:行政/団体
【関連企業・団体】:日本化学会

1<既報>
2<有機分子とガラスの複合 — 規則的な「ミクロの蜂の巣」の合成に成功>
 豊田中央研究所の稲垣伸二主任研究員と東北大学の寺崎治教授のグループは、ガラスの構造と有機分子をナノメートルスケールで規則的に複合させ、有機分子が内面に規則正しく配列した多孔性物質の合成に世界で初めて成功した。
 
 原料となるシラン化合物にベンゼン分子を直結させ、シラン化合物同士の化学反応により溶液状態からガラスの構造をつくりだす。この時、界面活性剤を加えることが合成のミソ。界面活性剤の棒状の凝集体を包み込みながら蜂の巣のような形状を持った多孔性のガラス(細孔の直径は3.8ナノメートル)が生成する。
 
 最大の特徴は内壁にベンゼン骨格が規則的に配列していることであり、無機のカベに有機の内装を施したことになる。触媒・吸着特性や電気・光学特性に従来にないものがみられ、超小型電子回路などへの応用が期待できる。
 
3<ボトムアップでつくるワイヤー — 世界最高の「三次非線形光学効果」の発見>
 高度情報化社会で光通信、光情報処理などの重要性が増している。21世紀はエレクトロニクスに代わる「フォトニクス(光)の時代」といわれているが、この中枢を担うのが光の波長を自在に制御する「非線形光学効果」である。
 
 都立大の山下正広教授らは金属イオンと有機分子を直結した金属錯体のボトムアップにより特異な電子構造を有する分子ワイヤーを作成した。ナノスケールのワイヤーの構造に特有の「量子閉じ込め効果」という現象や隣接する金属中心間の強い相互作用に起因して大きな効果を得た。
 
 光コンピューター、大容量光高速通信などへの発展が期待される。一部、企業化の動きもでている。
 非線形光学効果とは、ある波長の光が物質を通過するとき、n分の1波長の光を生じる現象をn次非線形光学効果と呼んでいる。
 
4<24成分からひとりで組みあがる巨大な分子カプセル>
 自己組織化は分子が弱い作用で集合し、最も安定な集合状態を求めながら特異な形態や機能をもった構造体を生成する仕組み。ナノスケールの構造体をボトムアップ構築する最有力の手法として注目されている。
 
 東大の藤田誠教授らは自己組織化を利用して、小さな分子や金属イオン24成分から巨大な分子カプセルを瞬時、かつほぼ100%の合成収率でくみ上げることに成功した。
 
 約3ナノメートルに到達するカプセル構造は、三次元的にほぼ密閉されており、いったん閉じ込められた分子は外に脱出することができない。医薬への応用などが期待できる。