2005年01月25日 |
京大・三菱化学など3社「有機発光トランジスタ」開発 |
世界初「低熱膨張透明基板」も、包括的産学融合が成果 |
【カテゴリー】:経営(新製品/新技術) 【関連企業・団体】:パイオニア、日立製作所、三菱化学 |
京都大学(総長:尾池和夫)と、パイオニア(伊藤周男社長)、三菱化学(冨澤龍一社長)、ローム(佐藤研一郎社長)の3社は25日、包括的産学融合アライアンスの成果として、フレキシブルディスプレイに供する画期的な「有機発光トランジスタ」及び世界初のバイオナノファイバー補強による「低熱膨張透明基板」の開発に成功したと発表した(別紙参照)。今後はこれをもとに、工業化実現に向けた研究を進める。 この包括的産学融合アライアンスは、04年8月京都大学と日本電信電話、パイオニア、日立製作所、三菱化学、ロームの5社で設立した。それぞれが持つ技術の強みを生かし、次世代の有機系エレクトロニクス・デバイス技術を中心に、新産業を創出していくのが狙い。 今回の成果は、京都大学の有する有機化学や電子デバイス分野等における高レベルの研究遂行能力と、市場志向した企業3社の技術開発力との融合により実現した。千歳科学技術大学・安達教授ら、有機エレクトロニクス分野の研究者が協力した。 この開発により、軽く、しなやかで壊れにくい、あるいは曲面表示が可能などの特徴を持った、次世代のユビキタス社会の表示デバイス実現が可能になった。モバイル用フレキシブルディスプレイや電子書籍、電子新聞、電子ポスターなどの新製品開発が期待できるという。 【別紙】(発表文) (1)有機発光トランジスタについて 本デバイスは、有機トランジスタにEL発光機能を持たせた複合デバイスで、この素子を用いて、アクティブマトリクス型表示デバイスを構成した場合、従来の有機ELディスプレイに比べ、駆動トランジスタと発光素子を同一のデバイスで構成できるので、部品点数を大幅に減らせる特長があります。 この有機発光トランジスタは、包括的産学融合アライアンスで創生された新規の有機化合物に、ソース、ドレイン、ゲート電極を配置した3端子電界効果型トランジスタです。従来の有機トランジスタがゲート電圧でドレイン電流を変調できるように、このデバイスでは、ゲート電圧でトランジスタのEL発光量を制御する事ができる。ソース・ドレイン電極から有機半導体層に注入された電子・正孔の再結合割合をゲート電極からの電界により変調し、発光量を変える事が可能となりました。また、発光の外部量子効率は、約0.8%を得ています。 この有機発光トランジスタの明るさは携帯電話等の表示ディスプレイを構成するのに充分な明るさを有しており、この成果は、高効率のトランジスタ駆動と、高効率の発光を両立するため、新規に有機半導体材料を設計し、最適なドーピング材料を組み合わせること、さらには電子注入電極の開発により実現した。またドーピング材料を変えることにより、様々なEL発光色を実現する事も可能となりました。 本デバイスは、京大を中心とする包括的産学融合アライアンス内に、千歳科学技術大学の安達教授のグループを迎え相互に協力し合って達成した成果です。京都大学、千歳科学技術大学の有機半導体材料、有機発光材料に関する知見と、材料メーカーである三菱化学の機能性色素に関する知見及び有機合成に関する技術力、さらにデバイスメーカーであるローム、パイオニアのトランジスタに関する知見、ニーズ情報が相互に密接にフィードバックし合い、融合し合うことで本成果が創出されました。 (2)低熱膨張透明基板について 本部材は、透明ポリマー材料を生物由来の透明ナノファイバーで補強するという世界で初めての画期的な発想に基づいて創製されたフレキシブル透明基板です。私共はこの材料を「バイオナノファイバーコンポジット」と名付けました。 補強材料にファイバー径100nm以下の透明ナノファイバーを使用することで、フレキシブルでありながら平行光線透過率85%を越える高い透明性とガラス並の低い線熱膨張係数の両立を達成致しました。ファイバー径がナノサイズであることから、この高い透明性は複合させる樹脂との屈折率差に左右されることがありません。また粒子形状では無くファイバー形状のフィラーであることから、熱膨張係数はフィラーとマトリクス樹脂との体積平均値よりもはるかに低減させることができました。 さらに、このナノファイバーフィラーは、熱膨張係数がシリコン結晶の約1/30と石英ガラス並に低く、弾性率もガラスより高くアラミド繊維(ケブラー)並、と優れた特性を有しています。また、生物由来であり、生合成が可能で、生産・廃棄に関する環境負荷が極めて小さいなど、既存のフィラー材料には無い今後の社会要請に適合した特性も併せ持っています。 従来、通常のポリマー材料基板上に形成した金属配線、透明導電膜、ガスバリア膜などは、組上げプロセス時、実装プロセス時の温度負荷で、基板材料との熱膨張係数の違いから断線、破損の可能性があり、これがフレキシブル表示デバイス実現の大きな障壁の一つとなっていました。今回、このような画期的なナノコンポジット材料、ナノコンポジット基板を創製できたことにより、また一歩フレキシブル表示デバイスの実現に近づくことができました。 この成果は、長年透明ポリマー材料研究者の夢とされてきた樹脂製光学部品の精度向上、樹脂製大型窓材料の実現にも途を拓くものと考えております。 本部材は、包括的融合アライアンスにおいて、京都大学生存圏研究所および京都大学大学院農学研究科の生物由来繊維材料に関する深い知見、材料メーカーである三菱化学の透明ポリマー材料およびコンポジット材料に関する知見、さらにデバイスメーカーであるパイオニアの発光デバイス、透明材料に関する知見やニーズ情報がまさに触発し合い融合し合って創出された成果です。 本成果の一部はアドバンスドマテリアル誌に掲載予定です。 ニュースリリース参照 http://www.chem-t.com/fax/images/tmp_file1_1106619236.doc 有機発光トランジスタ バイオナノファイバー強化透明材料 |