2001年10月17日
ノーベル賞の野依教授が講演「有用物質をつくり出す研究を」
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 ノーベル化学賞が決った野依良治名古屋大学教授が17日、横浜市内のホテルで開かれた新化学発展協会主催の第8回国際シンポジウムに出席し、「21世紀における化学の可能性」と題して基調講演を行った。

 シンポジウムの開会にあたって、同協会の三浦昭会長(三菱化学会長)は、「ノーベル賞学者の誕生は私たちの誇りであり、今席に迎えられてうれしい」と挨拶、会場内は盛大な拍手で沸いた。

 野依教授は講演の中で、まず「新世紀の国際社会のあり方」から説いた。「今の国際社会には矛盾が多い。矛盾内蔵型社会といっていい。世界人口は将来100億人、市場経済が拡大していく中でこれは深刻な問題だ」「そのためにも私たちは持続性ある文明社会の構築と発展を目ざさないといけない。持続性とは限定された物質と資源の効果的な配分という意味だ」と、わかりやすい口調。

 次に教授は「化学と化学者の使命」について「化学者の役割は明白だ。基礎化学の深化と展開、新世紀科学技術への積極的貢献、国際・学際・社会際的活動の積極的展開だ」と述べたあと、化学は本来“美しく、おもしろく、そして人類社会に貢献する”ものでなければならないと持論である化学に対する考え方を強調した。

 また、若いころの自分を振り返り源平盛衰記に出てくる白川上皇の“天下に3つの不如意あり、加茂川の水とすごろくのサイ、山法師”という言葉を引き合いに出し「サイコロの目は確率のことだが、本当にそうか。右手と左手で振った場合の確率は違う。6分の1の確率を6分の6にするのが科学の研究だと思った」と、ユーモアをまじえて披露。

 専門の研究分野については光学異性体の研究にはじまり分子触媒によって不斉合成の原理を生み出した経緯などを紹介したが、「現在有機合成化学に関する知的基盤には相当高いものがあるのに、経済的力量は不十分だ。化学反応効率の2ケタ向上を目ざさないといけない」と力を込めて説いた。

 一方、化学のあり方として「化学で有用物質をつくり出すことが大事だ。有用物質の効率的生産ではなく、主体的に有用物質を創製する研究をしないといけない」「ナノテクノロジーやバイオなど重要分野は物質の合成技術が支える」と化学の方向性を示した。また社会とのかかわりも重要と指摘し「社会全体で健全な判断力が得られるようにすべきだ」などと語った。

 講演は50分におよび、ときには辛口な評論をまじえながらも真剣に研究に取り組んできた一面が随所に感じられ会場を埋めた聴講者たちに感銘を与えた。