2006年12月06日
東レ、「可視光感光性マトリックス樹脂」開発に成功
次世代の革新材料、「薄型設計」安全・短時間成形が可能
【カテゴリー】:経営(原料/樹脂/化成品、新製品/新技術)
【関連企業・団体】:東レ

 東レは6日、可視光で硬化する炭素繊維複合材料(Carbon Fiber Reinforced Plastic:CFRP)用の新規感光性マトリックス樹脂の開発に成功したと発表した。今後、実用化のため成形加工技術の開発を急ぐが、将来的には航空機の二次構造材や補修・補強用パーツなど、薄型設計のCFRPが安全・簡便に成形できるようになる。「次世代の革新材料」として注目されそうだ。
 
 CFRPは樹脂を加熱・硬化させて成形するが、成形品として硬化するまでに長時間(約2時間)かかる。このため反応時間の短かい材料が求められていた。
 
 同社は、熱硬化性樹脂を改質することで硬化時間を飛躍的に短縮した「ハイサイクル成形法」の実用化に取り組むとともに、大型のオートクレーブ(加熱装置)を必要としない、エネルギー線による硬化反応を用いた感光性マトリックス樹脂の開発を進めてきた。
 
 この結果、電子ビームや紫外線などのエネルギー線のうち、安全で特殊な光源を必要としない「可視光」を利用して僅か数分間で硬化する画期的な新規マトリックス樹脂の開発に成功した。
 
 可視光は、電子ビームや紫外線に比べてエネルギー量が小さいため、硬化反応に限界がある。また熱硬化性樹脂に対して炭素繊維との接着性が劣ることから、CFRPの成形に適用することは実用上不可能とされてきた。
 
 今回開発した「可視光感光性マトリックス樹脂」は、独自の樹脂硬化反応制御技術とマトリックス樹脂設計技術の融合により、これらの課題を解決した。まず、電子ビームや紫外線に反応する光重合開始剤に可視光域で大きなエネルギー吸収を持つ光増感剤を組み合わせ、可視光でも高い反応性を引き出すことに成功した。
 
 さらに、これまでのマトリックス樹脂設計技術を応用してポリマーの最適設計を図ることで、厳しい材料スペックが要求される航空機用CFRPと同等の力学特性を実現した。
 
 同樹脂は、経産省が推進している国家プロジェクト「次世代航空機用構造部材創製・加工技術開発」(富士重工業と協力)の一環として開発した。
 
 今後は、航空機用途をはじめ、土木・建築の補修補強用途、電気・電子機器、自動車部材用途への展開が期待できる。感光性の特徴を活かして、薄型設計のCFRP(航空機の二次構造材など)や補修・補強用パーツへの適用から検討するが、将来的には大型構造材への展開も視野に入れて開発に取り組む。
 
  CFRPは、同強度のスチールに対して重さ約半分(アルミの3分の1)、5倍の引張強度を有する先端材料として、需要の本格拡大期を迎えている。特に航空機分野では、軽量化による燃費改善に最も高い効果を発揮できる素材として評価が高く、米ボーイング社の新型旅客機B787では主翼や胴体等、機体重量の半分以上に本格採用されている。
 
ニュースリリース参照
http://www.chem-t.com/fax/images/tmp_file1_1165388476.pdf