2008年04月08日
アステラス製薬、精神疾患の発症に関わるG蛋白共役型受容体を発見
米国科学雑誌「米国科学アカデミー紀要」に発表
【カテゴリー】:新製品/新技術(海外)
【関連企業・団体】:アステラス製薬

 アステラス製薬は8日、米国国立精神衛生研究所(NIMH)との共同研究により、G蛋白共役型受容体 SREB2(別名:GPR85)が脳の大きさや行動に影響を及ぼし、統合失調症の疾患感受性に関与することを解明し、7日付(現地時間)の米国科学アカデミー紀要(Proceedings ofNational Academy of Science of the United States of America、通称「PNAS」)に発表したことを明らかにした。

 細胞上にはG蛋白共役型受容体(GPCR)と呼ばれる膜蛋白質が存在する。GPCRはホルモンや神経伝達物質などのリガンドと結合することにより、細胞外からの情報を受容し細胞内に伝える重要な役割を担っている。受容体という性質を利用してGPCR を標的とした創薬研究が盛んに行われている。ヒトのゲノム上には1000 種類以上のGPCR が存在すると言われており、これまで上市された薬剤の半数がGPCRを標的として開発された。従って、新しいGPCR の機能及び疾患との関連性を研究することは、新しい創薬標的の発見につながるものと期待されている。今回、精神疾患との関連性が明らかとなったSREB2 は、GPCR ファミリーに属する新しいGPCRだという。

 SREB2 はアステラス製薬のゲノム創薬研究から発見された、脊椎動物の進化において進化遺伝学上最も重要と考えられるGPCR だ。その後NIMH との共同研究により、その発現が神経系に限局し、特に可塑性が高い脳領域、例えば記憶学習機能で重要な働きをしている海馬などで発現が高いことを明らかにし、これまでに報告してきた。その後、精神疾患との関連性を明らかにすることを目的に共同研究を継続してきた。

 本発表では、SREB2 が脳の大きさ、行動を決定する因子であると同時に、統合失調症の疾患感受性遺伝子であることを報告した。SREB2 を過剰に発現する遺伝子改変マウスでは、脳重量の低下、脳室の拡大といった脳の形態異常に加え、社会性行動の低下、情報処理機能及び認知機能の低下など精神疾患と関連する行動学的異常が観察された。

 一方、SREB2 を持たない遺伝子欠損マウスでは脳重量が増加し、記憶能力が向上することが観察された。SREB2 過剰発現遺伝子改変マウスの表現型と精神疾患との関連性に基づきNIMH 保有の統合失調症患者サンプルを用いて遺伝学的な解析を行ったところ、SREB2 が統合失調症の疾患感受性遺伝子であり、SREB2の遺伝的多型と統合失調患者の海馬の大きさに相関性があることが判明した。

 今回の研究成果として、SREB2 を標的とする薬剤が、従来の薬剤にはない新しい作用機序に基づく、統合失調症や認知症などの精神疾患の画期的な治療薬となる可能性を見出した。

 今後のさらなるSREB2 の機能、疾患関連性の研究は、創薬研究にインパクトを与えるだけでなく、基礎研究の分野でも、これまで知られていなかった重要な神経機能の発見につながるものと期待している。

■ 4月7日付けで米国科学アカデミー紀要誌に掲載される論文のタイトルおよび著者名は以下のとおり。

 Title:The evolutionarily conserved G-protein coupled receptor SREB2/GPR85 influences brain size,behavior and vulnerability to schizophrenia
 Authors: Mitsuyuki Matsumoto et al


ニュースリリース参照
http://www.chem-t.com/fax/images/tmp_file1_1207610823.tif