2001年04月20日
東レ、ナノテクノロジーを用いた高分子構造制御技術を開発
ポリエステルベースの新素材フィルムを開発、今後IT分野に展開
【カテゴリー】:新製品/新技術
【関連企業・団体】:東レ

 東レはこのほど、異なる複数の有機高分子を数ナノメートルオーダーで微分散させ、新しい特性を発現させる、微細構造制御技術(ナノアロイ技術)を新たに開発した。同技術は、高分子の混合比率を自在に調整できるため、汎用樹脂に少量の高機能樹脂をナノアロイすることで、既存設備を用いて新商品の生産が可能となる。
 今回開発した「高分子構造制御技術」は、高精度な分子設計と高度な混練・溶融押出・二軸延伸技術を駆使して、ナノオーダーで高密度に3次元的な拘束構造の形成を可能とした新たな技術であり、アロイ化する樹脂の特性そのものではなく、拘束構造形成が鍵となるため、アロイ化する樹脂がごく少量でも、特性の大きな飛躍が可能など、ナノであるだけに、従来のポリマーアロイとは作用機構も異なっている。
 同社では、この技術を用いてポリエステル(PET)ベースながら、従来のポリエステルフィルムの特性を大きく飛躍させた新素材フィルムの開発に世界で初めて成功した。現在、世界主要各国に特許出願中で、基本特許を取得する見込みとなっている。
 新素材フイルムは、構造が全く異なる複数のポリマーをアロイ(混合)した二軸延伸フィルムで、ナノメートルという分子オーダーでの超微細なポリマーアロイ(ナノアロイ)により実現したもの。同社では、従来のマクロなポリマーアロイとは全く異なる新たな世界を拓くものであるとしている。
 従来から、樹脂の特性を改良するために、ポリマーアロイによる高分子の改質が行われてきたが、例えば、剛性の高い樹脂に柔軟な樹脂を混合して、剛性を犠牲にしながら欠点である脆さを改善するなど、2つのポリマーをアロイした場合、その特性は両者の中間的なものしか得ることができず、結果的には最適化が主目的となっていた。さらに、構造が全く異なる樹脂同士は混ざり合わないため、フィルム化することはほぼ不可能とされてきた。
 新素材フイルムは、原料となるアロイ組成物を、「分子間相互作用理論」を踏まえたCAC(コンピューター化学)で設計、同社独自の混練技術、高精密な溶融押出・二軸延伸技術でその微細構造を制御し、二軸延伸フィルム中にPETとは全く異なるポリマーを数ナノメートルという分子オーダーで、微分散させたことが特徴。このため、異種ポリマーが少量でも、PETの非晶部(結晶以外の部分)の分子を強く拘束することとなり、ポリマー(PET)固有の性質と言われていたガラス転移温度や熱収縮率などが飛躍的に改善された結果、全く新しい特性を発現させることに成功した。
  今後、その優れた特徴と既存の製膜設備が活用できるなどの経済性を生かし、ポリエステルフィルムやPPS(ポリフェニレンサルファイド)フィルム、アラミドフィルムに続く新規高性能エンプラフィルムとしてラインアップし、大容量化が求められるデータバックアップテープ用のベースフィルムや高耐熱性が要求される電気絶縁材料をはじめとしたIT部材用途で幅広い展開を目指していく考え。
 これまで東レは、ナノテクノロジーを駆使し、高分子材料の特性を従来の延長線上から大きく飛躍させうる新たな素材を研究・開発し、大型商品として市場に提案することに取り組んできが、今回の新素材フィルムがその第1弾となる。またこの新技術は、プラスチックフィルムだけでなく、繊維、樹脂など多方面に応用・展開できるとしている。