2009年08月08日
インドと日本の経済協力 現状と展望、新内閣と今後の課題 貿易・投資など
【カテゴリー】:海外(行政/団体)
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 笹川平和財団(関晃典理事長)は6日、東京で「インドと日本の経済協力 現状と将来の展望」と題するセミナーを学者、シンクタンク、駐日インド専門家、銀行家らの講師を招いて開いた。

(1)インドの新内閣、今後の課題(チェアー・井上恭子大東文化大大学院教授)
(2)インドと日本の投資貿易チャンス 新たな機会(同・原洋之助政策研究大学院大学教授
(3)パートナーシップ 今後の手法(同・絵所秀紀法政大経済学部教授)
の3セッションで講演が行われた。以下は各セッションの要旨。

 第1セッションでは伊藤洋一住信基礎研究所主任研究員が「リトルピープル イン インデア」(文字をかけない7億の人が選挙を左右する)、三輪博樹中央大兼任講師が「インドにおける政党政治の展望」のテーマで講演。

 伊藤氏は「09年4,5月の第15回下院議員総選挙で与党進歩同盟(UPA)が過半数以上(320余、全体が545)を確保、第2次UPA政権が発足した。経済政策の持続への期待から株価も17%上昇した。

 新内閣の課題は経済成長(6%以上)、具体的には道路、鉄道、電力、港湾などのインフラ整備、農村・貧困対策の強化、外資誘致のための規制緩和、財政状況の改善、雇用を吸収する製造業など新産業の育成、パキスタンなど近隣諸国との緊張緩和、テロ対策など」であると指摘する。

 日本のインド投資は08年に8,090億円と中国の6,793億円を超えてアジア向け投資のトップとなった。インド経済は金融危機にもかかわらず国内需要が底堅く、インフラ不足などの課題を解決すれば、投資はさらに勢いづくとの見方もあるとしている。

 三輪氏は「インドは信頼度の高い中央選挙管理委員会の働きで民主主義が安定している。有権者が政権の政策実績や各政党の選挙キャンペーンを客観的に評価している。また政党システムが安定。貧富の差、女性の扱い、マフィアなどの問題もあるが、手続き的、政治的には比較的安定している」とみる。

 井上氏は新政権への疑問として「弱者が力を持ちつつあり、弱者の掘り起こしも見られる。弱者を無視すると不安定になる。予測がつく政策、政治のあり方をどう示すかである」としている。

 第2セッションでは、ダレル・シンインド貿易振興機構日本事務所代表が「インドでの成功の秘訣、日本企業の成功例、失敗例」、鈴木竜太国際協力銀行アジア太平洋ファイナンス部調査役が「デリ—ムンバイ産業回路」で講演。

 シン氏は「インド—日本の貿易は08年で130億ドル。あまり大きくない。欧米との比較で第3位。しかしインド人からのイメージはいいので、歓迎されている。08年の調査で日本企業は833社が進出、07年の555社を大きく上回った。問題は成功例が少ないことだ。鈴木自動車やホンダ、また、注射バリでの成功がある。

 これに対し化粧品、照明器具、おもちゃなど失敗例もみられる。照明器具では日本側に「製品の質が良い。売れないはずがないとの意識が強く、その前にインド人はその商品・ブランドの知識を持たないのだから商品をPR、広告する手段が必要なのだ」という。

 インドの事情を知らない外国のコンサルタントに高い料金を払っても効果はない。インド人にその業務を任せれば30分の1の経費で済むのだがという。日本人は長期的な計画で考えるが、インド人のいいパートナーを見つける方が得策であるようだ。

 インドでビジネスを始める際、どこに接触すればよいか。「政府や貿易関係の専門家、リタイアしたビジネスマン、セミナー会場での接触など、まず現地に足を踏み入れて調査を始めればよい。オフィスを開設しても月1人当たり8万—15万円の給料で済む。事務所費も電話代2万円、光熱費2万円といったところである」と現地人の活用を奨める。

 鈴木氏はDMIC(デリー—ムンバイ回路)をアンタイドローンで建設に協力している関係で「リサーチ&デマンドサービスで日本企業の海外事業展開を支援している。DMICは1,500キロの道路を2016年までに建設する。フィジビリティスタディ中(日本、インド各1億5,000万バルク)。インドはインフラ不足、法整備不透明、情報不足だがマーケットは大きい」と語る。

 第3セッションでは近藤正規国際基督教大上級准教授が「日印経済関係 現状と課題」、ブラビール・デ アジア開発銀行研究所客員研究員が「世界経済と金融危機およびインドと日本の経済協力協定」のテーマで講演した。

 近藤氏は「インドと日本の関係は06-08年にブームを起こしたが、ODA中心だった。96、97年に自動車、化学に集中してトヨタ、三菱化学などが出たが、総じて政府間ビジネス、外交が先行して、民間ではコミュニケーションが不足していた。ここ数年は両国首相が相互訪問し日本の直接投資、貿易が2倍に増えた。ただ、使節団、デリゲーションが多すぎるというきらいがある。タイ、マレーシアには政府援助があるが、インド政府にはない。民間での交流を増やすべきだ。

 日系企業の場合、社長、副社長などのトップクラスのコミットメントがほとんどない。交渉がうまくゆかないと相手側の責任にしたがる。最近では時間の遅れを取り戻す手段としてM&A(第一三共)もみられるが、米国資本の妨害にあうといったケースもみられる」と相互の立場、国情を尊重して交渉に当たるべきであるとしている。