2010年01月07日
三菱化学と王子製紙 ナノファイバーセルロース樹脂複合材を共同研究
2012年度の共同事業化目指す 有機ELなど幅広い分野に用途期待
【カテゴリー】:経営(新製品/新技術)
【関連企業・団体】:三菱化学

 三菱化学と王子製紙の両社は7日、植物を原料とする「ナノファイバーセルロース」と、樹脂の複合材の共同研究を行うことで合意したと発表した。有望な場合は2012年度を目標に共同事業化を目指す。
 
 共同研究期間は2012年9月までの約3年間の予定。有望な複合材料(植物および樹脂)の選定、効率的な製造プロセスの確立、具体的な用途分野の探索を行う。
 
 「ナノファイバーセルロース」は、植物繊維(パルプ)を1ミクロンの数十分の一のナノオーダーにまで細かく解繊(注1)したもので、線熱膨張係数はガラス繊維並みに小さく(=温度変化に伴う伸縮が少なく、寸法が安定している)、弾性率はガラス繊維より高い(=硬くて丈夫)など、アラミド繊維(ケブラー)並みの優れた特性を有している。
 
  また、同セルロースは植物由来のため、生産・廃棄に関する環境負荷が小さいことも特長。 直径が100nm(ナノメートル)以下のナノファイバーセルロースを樹脂中に分散させると、平行光線透過率85%を超える板ガラス並みの高い透明性と小さな線熱膨張係数を持ちつつ、加工・成型のしやすさや軽さなど、樹脂の特長も兼ね備えた高機能な複合材を製造することができる。
 
  透明で、自由な成型ができ、温度変化に伴う伸縮が少なく寸法が安定しており、丈夫であるというナノファイバーセルロース樹脂複合材ならではの特長を活かし、有機ELディスプレイのフレキシブル基板(=曲面ディスプレイ用)や、発光ダイオード(LED)の封止材など、幅広い用途への応用が期待されている。
 
  いっぽう、直径100nm以上のナノファイバーセルロースを樹脂中に分散させると、曇りガラスのように不透明ではあるものの光をよく透過する複合材を得ることができる。
 
  この不透明ナノファイバーセルロース樹脂複合材も、有機EL照明のフレキシブル製膜基板(=曲面照明用)や、さまざまな繊維強化プラスチックの代替素材としての幅広い活用が期待される。
 
  三菱化学はナノファイバーセルロース樹脂複合材について、2002年8月から京都大学包括的産学連携アライアンス(注2)のメンバーとして研究に参画し、並行して社内でも研究開発を進めてきた。2007年9月からは京都大学・矢野浩之教授によるNEDOプロジェクト「変性バイオナノファイバーの製造及び複合化技術開発」(注3)にも参加した。
 
 王子製紙も、従来から独自にナノファイバーセルロースの研究開発を進め、2007年9月には同じNEDOプロジェクトに参加してきた。
 
 両社はそれぞれが持つ製紙技術、化学処理技術、複合化技術を融合させることで、開発スピードの向上と効率化を図ることが可能と判断し、原料樹種の選定、原材料の精製から、解繊・化学処理・シート化・樹脂複合化までの一貫プロセスについて、共同研究をスタートさせることにした。

■用語の解説
(注1)解繊 :
ここで言う「解繊」とは、セルロース系繊維をセルロースミクロフィブリル数本単位まで解きほぐすことを指す。 高等植物から得られるセルロース系の繊維は、セルロース分子30〜50本からなり、繊維幅が約4nmのセルロースミクロフィブリルの集合体である。このミクロフィブリルがねじれながら結束した高次構造を形成して、セルロース系の繊維の形態を成し、強度を発現している。
セルロースミクロフィブリルは無数の水素結合により、強固に結合されているが、物理的、あるいは化学的な処理を施すことで、繊維状のままセルロースミクロフィブリル数本単位に解きほぐすことができる。

(注2) 京都大学包括的産学連携アライアンス :
2002年8月から継続している、京都大学と企業5社(日本電信電話、パイオニア、日立製作所、三菱化学、ローム)の、有機系エレクトロニクス・デバイスの包括的な研究開発を目指した枠組。ナノファイバーセルロースは、このアライアンスにおいて京都大学生存圏研究所・矢野浩之教授がナタデココを原料に開発した材料で、透明基板への応用に関する研究を実施中。

(注3)NEDOプロジェクト「変性バイオナノファイバーの製造及び複合化技術開発」 :
ナノファイバーセルロースを不透明構造材料に応用するためのプロジェクトで、期間は2007年9月から2010年3月まで。京都大学、京都市産業技術研究所、産業技術総合研究所のほか王子製紙、日本製紙、三菱化学、DIC、住友ゴムの各社が参加。

ニュースリリース参照
http://www.chem-t.com/fax/images/tmp_file1_1262846114.pdf