2010年07月26日
「中国の賃上げ争議の背景と対応策」上海・法律事務所がセミナー
【カテゴリー】:海外
【関連企業・団体】:なし

多発している中国の賃上げ争議、これまで07、08年にもあったが、今年5月末のホンダの争議以降連発し、日本をはじめ台湾、韓国、シンガポールなどの企業を悩ませている。「騒ぐほどトクをする」という現地人の見方もあって、長期化する恐れも出はじめている。

こうしたなか上海で日本企業を対象に活躍している開澤法律事務所(上海、TEL:8621-6876-7600)が「中国における賃上げ争議の背景、現状およびその対応策」をテーマにこのほどセミナーを行った。講師は東大法学部卒、一ツ橋大大学院経済法・民事法学科修了の王穏弁護士。

“特効薬はなく、情報の収集、即時対応、就業規則の作成が重要”とし、地元の有能な人材の活用を奨めている。

要旨は以下の通り。

中国には「工会法」(労働組合法)、「労働法」、「労働契約法」などの規定がない。1975年に争議の自由、82年に集会の自由が憲法で定められ、95年には解雇についての労働法が決められた。争議権の立法はまだである。工会法は政府の指導で運用されている。

中国の労働事情を知るためには、ばらつきの大きい従業員の素養、労務人事管理の憲法となる就業規則、まじめな従業員も影響される“騒ぎドク”の前例、外部からの迷惑レター、集団行動の監視に注目。90年代のソ連型の集団交渉権がまだ、参考になっている。

争議の発生の形としては、飛び火型、前例型、引き金型、煽動型など。原因としては社会型不満・不安、自己の素要、会社に対する不満(コミュニケーション不足、人間関係、給与体系、社風など)。

会社のために何ができるかではなく、会社が何をしてくれるかを問題視している。従業員を管理・事務職とするか生産ラインの出稼ぎ従業員とするかは、あらかじめ区別しておくのがいい。ともかく中国は苦情処理を政府機関で行う(無料)。

争議が発生した場合に対処する、対応マニュアル、本社との連携、対応チームの構成、行政・労働組合などとの協力体制が重要である。発生した場合には、争議の形での賃上げには応じない(就業規則に織り込むなど)、時間をかけない、悪い前例にならないように配慮するなど、本社との連携がとくに重要となる。

争議にはある程度、見極めが求められる。賃上げが困難な場合は、あらかじめ経営環境の悪化、利益率の低下、価格競争の激化などを説明しておく。周囲企業の賃金レベルの把握や現地幹部の活用を心がける。両国での教育訓練の実施。安易に交渉に応じない。

国家統計局では毎年の賃上げを2-3%とみているが、最近の争議による賃上げ交渉では10-20%、極端な例では約30%アップを獲得したケースもある。“騒ぎドク”がどこまで続くか。所得の格差拡大が問題視されている今日、給与のアップは避けられそうにない。

争議の予防として、労務人事制度、賃金体系の見直し、情報収集システムの構築、不平・不満の発散方法、緊急時のマニュアル作りが課題となろう。