2001年01月01日
【年頭所感】産業構造を改革するグレートインダストリーとして ・日本化学工業協会会長 香西昭夫
【カテゴリー】:行政/団体
【関連企業・団体】:日本化学工業協会

新しい世紀の幕開けを迎え、謹んで新年のお慶びを申し上げます。

 20世紀最後の10年間は、ベルリンの壁の崩壊を端緒とする国際情勢の変化と情報技術の進歩とがあいまって、世界のボーダーレス化が急速に進展し、世界経済がメガコンペティション時代へと突入したことを痛感させられました。

 昨年のわが国経済は、製造業を中心とする民間設備投資の回復と北米・アジアへの輸出の増加にも支えられ、全般的には、緩やかな回復過程をたどってまいりました。化学業界においても、アジア経済の復調や情報技術関連などの需要増加に加えて、各社の合理化努力も巧を奏し、総じて収益は改善いたしました。しかし、アジアや中東での石化設備の新増設から、海外を中心とする石油化学製品の市況が軟化傾向を示すなど、年度下期以降、厳しい事業環境となっております。

 欧米企業の大規模かつスピーディーなM&A、アライアンスの動き、情報技術の進展を背景とする技術革新、活力旺盛なアジア市場への進出をみるにつけ、わが国の化学工業もより一層グローバルな視点にたった大胆な施策を推し進めていかねばなりません。

 新しい世紀の化学産業は、バイオテクノロジー、情報通信、環境関連といった先端基盤技術との融合を視野に入れ、技術開発力を強化していく必要があります。さらに、環境・安全や食糧、資源・エネルギーなどの地球規模の問題が、大きな関心を集めている現在、化学技術は、その解決に向けて主導的な役割を果たすべきであり、その責任は極めて大きいといえます。

 日化協としては、環境・安全の問題を最重要テーマとし、ICCA(国際化学工業協会協議会)など各種国際機関との連携のもとで、既存化学物質の点検(HPV)やエンドクリン、発ガン、過敏症等の化学物質安全問題への自主研究(LRI)の取り組みを実施しております。さらに、昨年、法律が施行された汚染物質移動・登録制度(PRTR)への対応などを軸として、社会とのコミュニケーションの場も大きく広げながら、対話と相互理解に基づく透明性のある活動をさらに推進してまいる所存です。

 化学工業はもともと19世紀後半、染料の有機合成からスタートし、医薬品・肥料から繊維・プラスチックなどの高分子製品まで、人々の暮らしに大きく貢献してまいりました。20世紀は化学の世紀だったと申しても過言ではありますまい。21世紀においても、化学工業は、環境やエネルギー・資源といった課題にも、技術革新によって、正面から取り組み、例えばゲノム解析による医学の進歩や生物化学技術を活用した食糧の確保など、引続き大きな役割を果たすことが期待されています。

 昨年秋、ヒューストンで開催されたICCAの総会出席の折、同時開催されたアメリカン・ケミストリー・カウンシル(米国化学工業協会)の年次会合にゲスト参加する機会を得ましたが、同協会のサドラー会長(当時)は、「人類社会に大きく貢献してきた化学工業はGREAT INDUSTRYであり、それに携わっていることを何よりも誇りに思う。」と力強く語っていました。そして「今後も、化学の根源であるイノベーション努力を忘れず、現在そして未来の社会におけるクオリティ・オブ・ライフの向上に大きな役割を果たす責務がある。」と述べていました。

 私たちもこれと同様の確信と志をもち、今後とも、安全の確保を最優先しつつ、高い倫理観と自主管理・自己責任を基本とするレスポンシブル・ケアの精神のもとで、産業構造を革新するGREAT INDUSTRYとしての発展を目指してまいりたいと思います。

 この一年の皆様のご隆盛・ご発展を心からご祈念いたしますとともに、当協会の運営にご指導・ご鞭撻を賜りますことをお願い申し上げまして、新年のご挨拶といたします。