2015年04月14日
名大、教科書の「不可能」を可能にするベンゼン変換触媒開発
【カテゴリー】:ファインケミカル
【関連企業・団体】:科学技術振興機構

科学技術振興機構(JST)は14日、これまで長らく達成できなかったベンゼン環のパラ位(い)の水素をホウ素に変換する新触媒を名古屋大学が開発し、合成化学の新しい方法論を樹立することに成功したと発表した。

この手法を用いることで、複雑な有機化合物をわずか2段階で多種多様な誘導体に変換できるようになる。医薬品や機能性材料の開発現場で求められていた反応の登場によって、これらの分野の研究が飛躍的に進展すると期待されている。この研究成果は、米国化学会誌(ジャーナル・オフ・ザ・アメリカン・ケミカル・ソサエティ)のオンライン版で公開された。

ベンゼンは分子式C6H6で表される六角形の有機分子であり、その構造の単純さ美しさ(亀の甲)から有機化学のシンボルと言われてきた。ベンゼン環に結合している水素原子を様々な置換基に置き換えることで、ベンゼンに多彩な機能を付与することができる。6つの水素を別の置換基に置き換えていくとき、2つ目の置換基のつき方は3種類ある。とくに1つ目の置換基から最も遠い位置(パラ位)は化合物全体の形や性質を大きく変えるため最も重要であるが、同時に選択的に置換基を導入することが最も難しく、汎用的なパラ位変換反応はこれまで不可能だった。
名大は今回、ベンゼン環のパラ位にホウ素の置換基を選択的に導入する方法を開発した。ホウ素の置換基は、ノーベル賞反応として知られる鈴木―宮浦クロスカップリング反応などによって様々な置換基に簡便に変換できるため、
パラ位ホウ素化体を起点として多種多様な誘導体へと変換することが可能となる。
イリジウム触媒を用いてベンゼン環上の水素をホウ素化する反応で、置換基が1つの場合はメタ位とパラ位の両者にイリジウム触媒を用いてベンゼン環上の水素をホウ素化する反応で、置換基が1つの場合はメタ位とパラ位の両者にランダムに反応して、反応の選択性はメタ位に67%、パラ位に33%というのが常識だった。名大 では、触媒を適切に設計すれば、この常識を覆して、パラ位選択的なホウ素化反応が実現できることを突き止めた。その結果、パラ位ンおホウ素化が最大91%と高選択的に進行することを発見した。

今回開発したパラ位ホウ素化反応の有用性は、パーキンソン病治療薬「カラミフェン」の迅速誘導化へ応用することによって実証された。反応は、カラミフェンのアミノ基やエステルといった極性官能基の存在下でも問題なく進行し、目的とするパラ位ホウ素化体を選択的に得ることに成功した。これに対し既存のホウ素置換基変換反応を適用することで、それぞれわずか2段階で5種類のカラミフェン誘導体を合成することに成功した。カラミフェンのようにベンゼン環を持つ医薬品化合物や機能性材料化合物は無数に存在する、それら医薬品や機能性材料のベンゼン環のパラ位を変換することで、その性能・機能を大きく変える可能性を秘めていることから、今回開発した方法は非常に画期的であり合成化学の戦略を一変させる可能性がある。

名大では今後、触媒の改良によってさらなる汎用性の獲得を目指すとともに、今回開発した反応を利用した有用物質の探索研究を行う方針である。