2020年04月23日
理研、寄生虫が自己免疫疾患発症を抑える仕組み解明
【カテゴリー】:ファインケミカル
【関連企業・団体】:理化学研究所

 理化学研究所の下川周子客員研究員と国立感染症研究所などの共同研究グループは22日、自己免疫疾患の1型糖尿病(Type 1 diabetes;T1D)の発症の抑制に関わるCD8陽性制御性T細胞(CD8Treg)の誘導メカニズムを発見したと発表した。

 CD8Tregは、1970年代に報告された白血球の一種で、これまでさまざまな研究によって炎症性疾患、腫瘍免疫、移植寛容、自己免疫疾患などに対する治療戦略の糸口になると考えられてきたが、その機能などの全容は明らかにされていない。

 研究グループは今回、マウスを用いて、腸管寄生線虫のHeligmosomoides polygyrusが感染すると、T1Dの発症が抑制されることを見いだした。そのメカニズムとして、寄生虫がトレハロースという糖を分泌することで腸内細菌が増殖し、この菌によって、膵臓の細胞の破壊が食い止められ、T1Dの発症が抑えられることを明らかにした。
 
 同研究成果は、現代病(花粉症など)が増加したのは感染症が減少したからだとする「衛生仮説」を科学的に証明するとともに、T1Dの新たな予防・治療法の開発につながると期待できる。T1Dは、インスリンを分泌する膵臓の細胞が自分の免疫細胞によって破壊され、高血糖が引き起こされる自己免疫疾患で、近年患者が増加している。

 本研究は、オンライン科学雑誌「Nature Communications」(4月22日付)に掲載される。


<用語の解説>
◆衛生仮説とは :乳幼児期の衛生環境が、個体の免疫系の発達に影響を及ぼしているという仮説。近年アレルギーや自己免疫疾患の患者が増加している背景には、衛生環境の改善や生活水準の向上、予防接種の普及、食生活・栄養の変化、抗生物質の乱用による幼少時の感染症の減少が関与していることが、多くの疫学調査でも証明されている。


ニュースリリース
https://www.riken.jp/press/2020/20200422_1/index.html