2020年09月04日

東大、1秒間に約1億回の計測可能な分子分光法 開発

【カテゴリー】：新製品/新技術 【関連企業・団体】：東京大学

東京大学フォトンサイエンス研究機構の井手口拓郎准教授らの研究グループは3日、毎秒80,000,000スペクトルの速さで分子振動の情報を計測可能な赤外分光手法を開発したと発表した。 小さな雑音下で大きな信号を取得できる手法を開発することで、従来の最高速手法に対して約100倍の計測速度向上を実現した。分子を対象とする広範な基礎科学および産業での利活用が期待される。 光による計測は、物質を壊さずに分析できるという特徴を持つ。特に、分子の種類を見分けることができる赤外光を用いた分光計測は、物質の成分を非破壊的に調べることに利用できる。赤外分光計測を高速化することができれば、短時間内に起こる現象の分析や、短時間内に多くの計測を要する統計的な分析などに応用範囲が広がる。 現存する最も速い赤外分光手法では、1秒間に約100万回の計測が可能だ。だが今回、井手口准教授らはこれよりも約100倍速い計測が可能なタイムストレッチ赤外分光法（time-stretch infrared spectroscopy, TS-IR）の開発に成功し、1秒間に約1億回の計測を実現した。 この手法は、様々な波長の光を含んだ超短パルス光を時間的に引き延ばすことで、光の波長情報を時間波形に焼き直して、その時間波形を計測することで分光を行う。1つの光パルスで1回の分光計測が可能なため、1秒間に約1億個の光パルスを出力するレーザーと約50億分の1秒で応答する高速光検出器を用いることで、この高速計測を実現した。この超高速赤外分光手法により、分子を対象とする様々な基礎研究、産業での新たな応用可能性が開かれると期待される。 ＜用語の解説＞ ◆超短パルス光 ごく短時間に局在する光のこと。通常、ピコ秒（1兆分の1秒）やフェムト秒（1千兆分の1秒）、あるいはそれ以下の時間幅を持つ光がこう呼ばれる。↑