2020年10月26日
九大、ダイレクト法でヒト肝前駆細胞作製 成功
【カテゴリー】:ファインケミカル
【関連企業・団体】:九州大学

 九州大学 生体防御医学研究所の鈴木淳史教授らの研究グループは、京都大学、国立国際医療研究センターとの共同研究により、ダイレクトリプログラミングの手法を用いてヒトの臍帯静脈や末梢血中の血管内皮細胞から高い増殖能と、肝細胞・胆管上皮細胞への分化能を有する「誘導肝前駆細胞(iHepPC)」を作製することに成功したと発表した。

 鈴木教授らは、2011年にマウスの皮膚から抽出した線維芽細胞に2つの転写因子を導入することで、線維芽細胞を肝細胞の性質を有する「誘導肝細胞(iHepC)」に変化させることに成功した。そこで次に、同様の手法を用いてヒトiHepCの作製を進めた。だが、作製されたヒトiHepCは増殖能が低く、大量の細胞を必要とする細胞移植医療や創薬研究に応用することは困難と判明した。
 
 同教授らは、増殖できない肝細胞ではなく、高い増殖能と分化能を有する肝前駆細胞をダイレクトリプログラミングの手法によって作り出せないかと考えた。転写因子の組み合わせを再検討した結果、最終的に3つの転写因子(FOXA3、HNF1A、HNF6)をヒトの臍帯静脈や末梢血由来の血管内皮細胞に導入することで、長期培養による安定的な増殖が可能なヒトiHepPCを作製することに成功した。
 
 作製されたヒトiHepPCは、三次元培養下で肝・胆管組織様構造を形成し、それぞれ機能的な肝細胞と胆管上皮細胞へ分化・成熟する能力をもつことも判明した。また、ヒトiHepPCから分化した肝細胞を致死率の高い急性肝不全モデルマウス(生存率2割)の肝臓へ移植したところ、マウス肝臓内でヒト肝実質組織を再構築して機能し、高い救命効果(生存率8割)を発揮することも判明した。
 
 同方法を用いることで、機能的に成熟した肝細胞や胆管上皮細胞をヒトiHepPCから大量に調達することが可能になると考えられる。

 研究成果は、10月21日に英国科学雑誌「Nature Communications」に掲載された。


◆ ダイレクトリプログラミングとは:ある細胞Aの運命を決める遺伝子を別の細胞Bに発現させることで、細胞Bの分化状態を強制的に変更して細胞Aの性質を有する細胞へ変化させること。


ニュースリリース参照
https://www.kyushu-u.ac.jp/f/41013/20_10_21_03.pdf