2021年03月15日
九大、細胞シートを細胞同士が引きあう仕組み解明
【カテゴリー】:ファインケミカル
【関連企業・団体】:九州大学

 ヒトの体の表面や器官は、上皮細胞と呼ばれる細胞のシートで覆われているが、その細胞は、隣り合う細胞同士が、同じ力で互いに引っ張り合うことにより、細胞のサイズを均一に保っている。体が形作られる過程では、特定の上皮細胞が他の上皮細胞をより強い力で引っ張ることで、細胞シートを湾曲させ、神経管などの管構造を形成するが、平面的な細胞のシートを維持するためには、常に、隣接した細胞は同じ力で引きあう必要がある。この細胞同士が引っ張り合う力の均衡が、どのようにして保たれているかについては、不明な点が多く残されていた。


 九州大学 大学院の池ノ内順一教授(理学研究院)らはこのほど、新潟大学と共同で、MAGI、RASSF、ASPPの3種類の遺伝子からなるタンパク質複合体が、上皮細胞の細胞間接着部位に局在し、上皮細胞シートの張力の均衡を保つ上で必要であることを明らかにしたと発表した。
 
 これらの遺伝子を欠損した上皮細胞のシートは、細胞同士が引っ張り合う力の均衡が破れて、細胞シートを構成する細胞のサイズが不均一になる。MAGI、RASSF、ASPPの3者複合体は、隣接した上皮細胞間において、それぞれの細胞の収縮力を制御するミオシンの活性が等しくなるように調整する役割を担っている。
 
 このような細胞同士の間に生じる機械的な張力を介した情報伝達は、上皮細胞の増殖や運動を制御する重要な役割を担うことが近年明らかになっており、今回の成果は、上皮細胞の異常によって生じる癌の病態解明にもつながることが期待される。
 
 また、平島教授らは以前の研究でASPP遺伝子の異常は胎児浮腫の原因となることを見出しており、胎児浮腫の新たな治療法を開発する上で基礎となる知見といえる。
 
研究は、文部科学省・日本学術振興会の科学研究費等の支援を受けて行われた。
同成果は、3月12日に英国科学雑誌「Communications Biology」に掲載された。


九州大学ホームページ
https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/575