2021年07月09日 |
九大、数理モデルによる臨床試験シミュレータ 開発 |
【カテゴリー】:ファインケミカル 【関連企業・団体】:九州大学 |
九州大学 数理生物学研究室の岩見真吾准教授(現・名古屋大学教授)らは、共同研究により、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の「臨床試験シミュレータ」を新たに開発したと発表した。これにより、抗ウイルス治療剤の臨床試験で解決すべき問題が特定でき、標準治療の確立を大幅に加速させると期待される。 新型コロナ対策では効果的な抗ウイルス薬剤の開発が求められ、現在、複数の治療薬が候補に挙がっている。しかし、有効な治療効果を確認した臨床試験は多くない。その理由を探るため、研究グループは、COVID-19患者の臨床データを収集し、数理モデルを用いて分析した。その結果、患者間でウイルス動態、特にウイルスの減衰速度に大きな差があることを見出した。このようなウイルス動態の違いは、抗ウイルス薬剤の治療効果推定にバイアスを与える「交絡因子」となることが考えられる。 一方、交絡因子の影響を受けない治療効果の評価手法に「ランダム化比較試験」がある。 研究グループは、数理モデルを用いてランダム化比較試験を再現するシミュレータを開発した。発症時期に関わらずに患者を試験に参加させた場合、1万人を超える被験者の参加が必要なことがわかった。これは、特に感染者数の限られる日本では非現実的な必要被験者数といえる。一方で、発症後間もない患者のみを試験に参加させることで必要被験者数を500人程度に抑えることができることを世界で初めて示した。 なお、本研究で用いた、ウイルス感染動態に基づく臨床試験のシミュレータは医師主導臨床試験の設計に用いられ、異例の早さで既に現在、国内で実施されている。今後も、数理科学と生命医科学の異分野融合により臨床試験設計を補助することで、その他の感染症や疾患における標準治療法の早期確立を目指す。同成果は7月7日、国際学術雑誌「PLOS Medicine」に掲載された。 ニュースリリース参照 https://www.kyushu-u.ac.jp/f/44253/21_07_07_01.pdf |