2021年11月09日
北大、アルギン酸高度利用へ酸化代謝経路発見
【カテゴリー】:ファインケミカル
【関連企業・団体】:北海道大学

 北海道大学大学院の井上晶教授(水産科学研究院)らの研究グループは8日、微生物がアルギン酸の酵素分解によって生じる不飽和単糖由来DEHUを酸化的に代謝する経路をもつことを初めて明らかにしたと発表した。

 アルギン酸は,コンブやワカメなどの褐藻に最も多く含まれている多糖類で、ヒトはアルギン酸の分解酵素をもたないため、これらの海藻を食べてもアルギン酸は体内に吸収されず排出される。一方、自然界にはアルギン酸の分解酵素をもつ生物(一部の細菌やアワビなどの海産軟体動物)が存在している。これらは多糖リアーゼという酵素によってアルギン酸を分解し、DEHUと呼ばれる化合物を生み出す。
 
 DEHUについては,細胞内で還元反応を受けた後,最終的にピルビン酸に変換される還元的代謝経路が1962年に米国の研究者によって提唱された。提唱から現在まで、アルギン酸を栄養源として利用する生物は細胞の還元力を消費しながらこの経路でDEHUを代謝すると考えられてきた。

 研究グループは今回、単離した褐藻分解菌の抽出液中にDEHUを還元だけでなく、酸化する酵素も存在することに気付いた。その酸化酵素を同定した結果、DEHUの還元を担う酵素と同一のものであることが明らかになった。さらに、DEHU酸化物を変換する新規酵素も発見し、細胞の還元力を消費しないDEHUの酸化的代謝経路の全容を解明した。

 アルギン酸は多くの分野で利用されている有用多糖で、近年では、食糧と競合しない褐藻から大量に得られるため、新しい利用法の開発が注目されている。例えば、アルギン酸をバイオエタノールに変換する能力をもつ酵母や大腸菌の開発が進められたが、DEHU代謝時に生じる細胞の還元力不足の克服が最重要課題だった。本研究の知見は,この問題解決に新しいアイデアを提供するもので、新技術の開発を加速すると期待される。

なお本研究成果は11月2日公開の「Communications Biology」誌にオンライン掲載された。

ニュースリリース参照
https://www.hokudai.ac.jp/news/pdf/211108_pr2.pdf