2022年01月14日
東北大、脳の柔軟性を活性化 てんかんの機構解明
【カテゴリー】:ファインケミカル
【関連企業・団体】:東北大学

 東北大学大学院 生命科学研究科の松井広教授(超回路脳機能分野)らの研究グループは、「脳に内在する柔軟性を活性化させる、てんかんレジリエンス(回復力)機構の解明に成功した」と発表した。脳神経細胞の活動を光で操作できるラットを用いて、てんかんの発生機序を研究し、光刺激でてんかん発作を繰り返させると、てんかん発作に対する抵抗性、てんかんレジリエンスが獲得されることが示された。

 日本人の1%はてんかんの有病者で、そのうちの65%の患者は薬で発作を抑えることができる。しかし根本的な治癒は、外科的に脳の責任部位を切除する方法だけであり、多くの患者は一生薬を飲み続ける必要がある。

 研究に用いたのは脳神経細胞に光感受性分子、チャネルロドプシン2(ChR2)を遺伝子発現するラットで、海馬神経細胞を光刺激する実験を行った。その結果、当初は光刺激によって、てんかん様の発作が引き起こされ、刺激のたびにより強い発作が生じたが、長期間繰り返し刺激すると、発作が完全に抑制されるようになった。神経細胞からグリア細胞への信号伝達が繰り返されることで、グリア細胞から神経活動を抑制する物質(アデノシン)が放出されるようになり、てんかんに対する抵抗性や回復力(てんかんレジリエンス)が獲得されたことが示唆された。
 
 このような、脳のシステムを一定に保とうとする内因性ホメオスタシス機構の効果的な活性化は、てんかんに対する根本的治療として発展することが期待される。

同研究成果は、2021年12月22日付で「Neurobiology of Disease」誌にオンライン掲載された。

<用語の解説>
◆チャネルロドプシン2(ChR2)とは: クラミドモナスという藻の一種に発現する光感受性の膜タンパク質のこと。ChR2に光をあてると、非選択的な陽イオンチャネルとして働くため、このタンパク質を発現する細胞は電気的に活性化される。今回、神経細胞にChR2を遺伝子発現するラットの海馬を目指して光ファイバーを刺し入れ、連発光刺激を照射することで、てんかん様発作を引き起こすことができることが示された。


ニュースリリース参照
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2022/01/press20220113-02-seizure.html