2022年03月03日
九大、酸を用いて芳香族アセンの新合成法開発
【カテゴリー】:ファインケミカル
【関連企業・団体】:九州大学

 九州大学先導物質化学研究所の新藤充教授、岩田隆幸助教らの研究グループはこのほど、ベンゼン環を3枚羽根としたプロペラ型分子であるトリプチセンを酸と混ぜるだけで、3つある羽根のうち1つの継ぎ目だけを外す反応を見つけ、これをアセンの合成へと応用することに成功したと発表した。
 
 アセンはベンゼン環が連なった構造をもつ芳香族化合物で、有機半導体や色素などの有機電子材料としての有用性が注目されている。しかし、これらは一般に不安定な分子であることから合成が難しく、入手法が限られている。そのため、安定な前駆体(原料)および簡単な合成法の開発が求められていた。

 トリプチセンは機能材料の部品としてよく使われるが、従来はその歪んだ分子骨格を「解体」したり、別の骨格に変換したりする有用な方法は知られていなかった。今回発見した反応を用いると、トリプチセンをアセンへと変換可能なアントロン誘導体へと効率的に導くことができる。そこで、羽根にナフタレン環をもつトリプチセンを開いた後、さらなる変換を行うことでテトラセンというベンゼン環が4枚連なったアセンを合成した。

 本研究から、トリプチセンがアセンの原料として有用であることがわかった。そのため、機能性置換基を持つトリプチセンを合成できれば、簡単に機能性アセンに導けるようになる。近い将来、様々な置換基を持たせたアセンの合成に有効活用されるものと期待できる。

 本研究成果は2月3日にヨーロッパ化学会の国際誌である「Chemistry - A European Journal」にオンライン掲載され、表紙にも採用された。

◆アセン :アセンはベンゼン環が直線上に連なった多環芳香族分子で、二環性のナフタレンをはじめ、三環性のアントラセン、四環性のテトラセン、五環性のペンタセンなどがある。これらは優れた電気特性から有機半導体として注目されており、有機太陽電池や有機EL等への応用が検討されている。


ニュースリリース
https://www.kyushu-u.ac.jp/f/47082/22_03_02_02.pdf