2022年03月28日 |
京大、神経細胞を作る遺伝子制御の構造を解明 |
【カテゴリー】:ファインケミカル 【関連企業・団体】:京都大学 |
京都大学高等研究院の井上詞貴 特定准教授は25日、カリフォルニア大学の研究グループとの共同研究で、神経分化に関与する数百の遺伝子制御モチーフの時間的活性変化を明らかにしたと発表した。遺伝子の複雑な働きを解明する上で重要な成果としている。Nature Communicationsにも報告した。 DNAには生命活動に必要なあらゆる情報が書きこまれている。その中の一つが生体内で働くタンパク質の設計図である遺伝子だが、DNA上には、遺伝子の発現量を調節するエンハンサーと呼ばれる領域も存在する。 受精卵が細胞分裂によって増えていき、それぞれの器官に応じた細胞に分化していく際には、エンハンサーが重要な働きをする。だが、いつどこでどのように働くのかといった詳細なメカニズムは、ほとんどわかっていなかった。 研究グループは、エンハンサーに結合して活性を制御する転写因子の結合部の塩基配列をわずかに改変したものを多数用いて、エンハンサーの機能を大規模かつ並列的に定量解析する新しい技術「大規模並列レポーター摂動アッセイ法」を用い、遺伝子の活性化や不活性化にどのような制御モチーフが関わっているのかを系統的に調べる方法を開発した。 この手法を使い、ヒトの胚性幹細胞が神経前駆細胞へ分化していく過程を調べ、遺伝子の転写調節に重要な役割を果たしている598個の制御モチーフを同定した。これらのモチーフを分類し、さらに詳しく調べたところ、制御モチーフが転写を促進するか抑制するかの違いは、ほとんどの場合その配列で決定されていることが分かった。 また、影響の大きさは細胞の環境に依存し、制御モチーフが働くタイミングによって決まることが明らかとなった。これにより、遺伝子の発現は、制御モチーフの配列が互いに作用しあう複雑な構造によって制御されていることが示された。 研究グループが今回確立した手法は、神経前駆細胞だけでなく、がん細胞を含む他の細胞の研究のための強力なツールとなる。細胞に固有の遺伝子制御の仕組みが明らかになれば、治療のターゲットとなる新たな配列の発見につながる。 <用語の説明> ◆胚性幹細胞 ::受精卵から細胞が増えていき胎盤胞と呼ばれる初期の段階の細胞塊から作られた培養細胞。どの組織にも分化できる多能性をもつ。ES細胞とも呼ばれる。 ニュースリリース参照 https://ashbi.kyoto-u.ac.jp/ja/news/20220324_research-result_inoue/ |