2022年07月01日
東北大、薄膜の微小領域だけ磁石にできることを実証
【カテゴリー】:ファインケミカル
【関連企業・団体】:東北大学

 近年、電子が持つスピンの自由度の利用が注目され、スピントロニクス素子や量子コンピュータの情報の単位であるキュービットなどの研究が盛んだが、東北大学多元物質科学研究所の米田忠弘教授らのグループは1日、TMDの一種である二セレン化ニオブ(NbSe2)を用い、薄膜が曲がると局所的に磁石として振る舞うことを実験的に検証したと発表した。

 NbSe2は低温で超伝導特性を示すが、走査型トンネル顕微鏡を用いたトンネル分光を利用すれば、超伝導状態に特徴的な超伝導ギャップが観察可能となる。そのとき磁性を持つ原子が近くに存在すると、ギャップ内部にYSRと呼ばれる磁場による散乱状態が観察され、局所的磁場センサーとして用いることができる。

NbSe2を劈開した表面上に、1T相原子構造をもつ厚み一層の島が観察されたが、その薄膜の一部で平坦ではなく曲面になっている場所が見つかった。その個所でトンネル分光を適用したところ、曲面の一部、最大の曲率をもつ個所で明瞭で強度の強いYSRピークが観察された。

これは薄膜を曲げて、2 nm程度の微小領域にのみ局在する磁石を作成したことになる。局所的な曲がりの制御は同じ層状物質のグラフェンではすでに盛んに行われ、グラフェン・オリガミという研究テーマとして、直接的には走査プローブ顕微鏡の探針でグラフェンシートをナノメータースケールで切り、片方を持ち上げて折りたたむ実験はすでに示されている。またナノリボンとよばれる短冊状の原子層の片方にのみ電場を印加して静電力で機械的な曲げを生じさせる手法も議論されている。本発表の成果は薄膜の歪や曲げを利用したナノ領域の局所磁場の制御に応用可能と期待される。
同研究成果は6月6日に英国王立化学会の学術誌「Nanoscale」にオンライン掲載された。

ニュースリリース参照
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20220701_02web_ysr.pdf