2022年08月23日
理研、免疫研究で漢方薬の効き目を解明
【カテゴリー】:ファインケミカル
【関連企業・団体】:理化学研究所

 漢方薬「大建中湯」は、整腸剤として広く処方されているが、どのようなメカニズムで効くのかは長年、謎のままだった。理化学研究所生命医科学研究センターの佐藤尚子専任研究員は22日、自身がパスツール研究所留学時に発見した免疫細胞を使ってその謎に迫り、大建中湯が短期の服用で効果をもたらすメカニズムを明らかにしたと発表した。

 佐藤研究員は、免疫系細胞の一つであるナチュラルキラー細胞(NK細胞)を、赤く光らせるマーカーを付けて顕微鏡をのぞいたところ、緑と赤のマーカーが同じ位置で重なって光っていた。緑色のマーカーは細胞分化に関わるタンパク質「RORγt」の存在を示すもので、「NK細胞でRORγtが働いている」のを発見した。
 
 当時、そのような細胞の存在は知られていなかった。後に、3型自然リンパ球(ILC3)に分類される新種の細胞を発見した瞬間だった。この成果は世界中でがんや感染症、アレルギーなどにまつわる多くの免疫現象の解明に役立っている。

 佐藤研究員はさらに免疫研究を続け、大建中湯の効果には、ILC3の働きが関わっていることを明らかにした。腸炎のマウスは体重が20%以上減少するが、大建中湯を投与した腸炎マウスはほとんど体重減少しなかった。

 大建中湯は1週間前から実験終了まで、餌に混ぜて投与した。投与7日目から5日間、腸炎を起こす液体(DSS)を飲水に混ぜて腸炎を誘発。大建中湯を投与したマウスでは、腸炎を起こした後の体重減少が抑えられた。これにより統計学的な検定の結果、有意な差があることをつかんだ。

 そこで、腸内フローラ(細菌のバランスや量)を調べたところ、大建中湯を投与した腸炎マウスは健康なマウスに近く、特に乳酸菌の一種「ラクトバチルス」という細菌が増えていた。これがつくるプロピオン酸が腸管内の炎症を修復する働きをしていた。佐藤研究員は「漢方薬は長く飲んでいて、緩やかに効くという印象がつよいが、腸内環境が速やかに改善する様子を捉えられたのは驚きだった」と話しているという。
 
<関連リンク>
・2022年6月2日プレスリリース「炎症性腸疾患における漢方<大建中湯>の作用機構を解明 」
https://www.riken.jp/press/2022/20220602_1/

・2020年4月2日プレスリリース「胃が免疫誘導にも重要なことを初めて解明 」
https://www.riken.jp/press/2020/20200402_1/