2022年10月19日
東北大、分子構造制御で磁性をオン・オフ/新手法開発
【カテゴリー】:ファインケミカル
【関連企業・団体】:東北大学

 電子機器の心臓部にあたるエレクトロニクス素子は、シリコンなど重い元素の塊を削るトップダウンと呼ぶ手法で回路を作り、電子の電気の性質(電荷)を操作する。この素子の消費電力を大幅に下げ、同時に演算速度をけた違いに高めるため、電荷に加えて電子の磁石の性質(スピン)を併用するスピントロニクス素子の開発が活発化している。スピントロニクス素子の開発にも多くは重い元素が用いられる。一方、物質の最小単位である原子や分子から組み立てるボトムアップと呼ぶ手法で、従来に比べてはるかに微細な分子エレクトロニクス素子の研究開発も行われている。その先で分子スピントロニクス素子への関心が高まっている。

 東北大学 多元物質科学研究所の米田忠弘教授らの合同チームは18日、セリウム(Ce)原子を上下から環状化合物のフタロシアニン(Pc)配位子でサンドイッチした分子(CePc2分子)を用いて、もともと磁性を持たない分子が、金属表面上で薄膜を形成し表面で高い充填率を示す場合、自己組織的に内部構造を変化させ、その結果、磁性を発生させるという新手法を開発したと発表した。

 金属上に分子の薄膜を形成した時、分子結晶では得られない高密度充填がなされ、その時に内部構造であるθを変化させることを見出した。実験的に走査トンネル顕微鏡(STM)を用いて観測し、また局所的な磁性の発生もトンネル分光(STS)により近藤状態*3を検知することで確認した。

 薄膜中の分子の充填率変化で分子構造の変化が生じ、磁性を制御する手法は、今後スピン制御と情報伝達を結びつけるスピントロニクス材料の局所磁性制御法として情報処理やセンサー応用が期待される。
 同結果は、米国化学会誌「The Journal of Physical Chemistry C」オンライン版(9月30日付)に掲載された。

<用語の解説>
◆スピントロニクス :電流・電圧により情報を処理する、電荷を基本とした従来の半導体デバイスにかわり、電子の磁気的性質(スピン)も利用する新たなエレクトロニクス技術。低消費電力かつ高密度な磁気記録素子などの幅広い応用が期待され、近年注目を集めている。

ニュースリリース参照
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20221018_01web_molecule.pdf