2023年03月10日
北大、化学反応の基本法則 検証に世界初・成功
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 北海道大学大学院工学研究院の関川太郎准教授らの研究グループは9日、リング状分子1,3-シクロヘキサジエン(CHD)が化学反応の基本法則の一つ、ウッドワード・ホフマン則に従い開環する過程を、フェムト秒軟X線吸収分光によって解明したと発表した。

 CHD中の結合が切れる際、リング面外に飛び出ているC-H結合の捻じれる方向は、逆旋方向と同旋方向の二つあり、ウッドワード・ホフマン則はその方向を予言する。有機合成化学では、捻じれ方向で異なる生成物が合成されるので、捻じれ方向の予言は実用上重要だ。しかし、反応は超高速に進行するため、これまで反応経路の検証は行われなかった。

 研究グループは今回、最先端のレーザー技術により発生したフェムト秒近赤外線レーザーパルスを軟X線連続光(200~370 eV)に変換して、分子の結合状態に敏感な炭素原子の吸収スペクトルを、フェムト秒の時間分解能で観測した。その結果ポンプ光照射後340~500フェムト秒の間、吸収エネルギーが高エネルギー側へシフトすることが分かった。

 これはウッドワード・ホフマン則の予言と一致し、予言通り反応が進行することを世界で初めて観測した。
 またこの結果は、炭素原子の軟X線吸収スペクトルが、有機化学反応メカニズム解明のための敏感のプローブになり得ることを意味している。最先端のレーザー物理技術と量子化学計算の融合の成果と言える。
なお、本研究成果は2月16日公開の「Physical Chemistry Chemical Physics」誌に掲載された。

<用語の解説>
◆ウッドワード・ホフマン則  :「反応の前後において反応に分子軌道対称性は保存される」という法則で、化学反応の立体選択性を説明する。

ニュースリリース
https://www.hokudai.ac.jp/news/pdf/230309_pr2.pdf