2023年07月19日
北大、多様な分子を高感度に検出/アルデヒド固定
【カテゴリー】:ファインケミカル
【関連企業・団体】:北海道大学

 北海道大学医学部の渡辺雅彦教授らの研究グループは18日、2価のアルデヒドであるグリオキサールを主体とした新規組織化学固定法の確立に成功したと発表した。

 免疫組織化学法は、分子の局在を調べるために世界中で広く用いられている研究手法だが、タンパク質の漏出や変性を防ぐため免疫組織化学法を行う前には必ず組織や細胞を化学的に固定する。アルデヒド系固定剤の一つであるホルムアルデヒド(ホルマリン)は世界的なスタンダード固定液として、これまで組織学や組織化学の研究に長年使用されてきた。
 
 しかし、ホルマリンはタンパク質を強力に架橋し組織を収縮させる性質を持つため、固定組織への抗体の浸透やアクセスを制限し、十分な染色性が得られないことが問題だった。特に、神経情報伝達の場であるシナプスには情報を伝達するための受容体や輸送体、これらを特定の部位に集積させるための足場タンパク質などが高密度に密集しているため、ホルマリン固定組織では分子検出が困難となることが多く、その適切な検出には抗原露出のための特殊な操作や工夫が必要だった。

 研究グループは、まずグリオキサールを主体とする固定液組成を最適化した。次に、最適化されたグリオキサールによる固定組織を用いると、従来ホルマリン固定組織で検出困難だった分子に対しても、光学顕微鏡・電子顕微鏡レベルで高感度かつ簡便に検出できることを明らかにした。
 
 グリオキサールを用いた染色性の向上は、げっ歯類のみならず霊長類であるマーモセット組織でも確認され、病理診断で用いられるパラフィン切片でも確認された。今回の研究成果は、神経科学研究を大きく加速するとともに、モデル生物を用いる生命科学研究からヒト組織を用いる病理診断や医学研究への応用へも期待される。
なお、本研究成果は7月14日の「Science Advances」誌にオンライン公開された。

ニュースリリース
https://www.hokudai.ac.jp/news/2023/07/post-1263.html