2023年08月22日
「中性子と水素のスピンでナノ状の氷結晶観測成功」
【カテゴリー】:ファインケミカル
【関連企業・団体】:広島大学

 日本原子力研究開発機構、広島大学、(一財)総合科学研究機構などの共同研究グループは22日、中性子と水素のスピンでナノプレート状の氷結晶観測に成功 したと発表した。

 食品、医薬品、生体組織などを凍結保存する際には、糖などの凍結保護剤を添加することで氷結晶の成長を抑制し、細胞や細胞小器官などの損傷を防いでいる。 だが、従来の光学顕微鏡法では数十マイクロメートルにまで成長した氷結晶しか観測できないため、分子計算で提唱されている分子レベルの成長抑制メカニズムを議論できなかった。

 研究グループは今回、技術開発を進めてきた「スピンコントラスト変調中性子小角散乱法」を用いて、毒性の低い凍結保護剤として注目される糖の凍結溶液中で、核生成したばかりのナノスケールの氷結晶を観察した。

 解析の結果、高濃厚のグルコースを添加した溶液では、厚さが氷結晶の最小生成サイズとおなじ数ナノメートルしかないプレート状の氷結晶が生成することを見出した。 このような形状は、糖が水分子を水和することで氷結晶の成長を抑制するという従来のモデルでは説明できない。このことは糖分子が氷結晶の特定の面に強く吸着するなど、別の結晶成長抑制メカニズムを兼ね備えている可能性を示している。

 今回の研究結果は、凍結保存技術の開発のみならず、極地環境に住む生物の糖の分泌による生命維持機能の解明など、今後幅広い研究に貢献できる。 食品・医薬品・細胞組織の凍結保存技術の開発につながると期待できる。
 同成果は、国際学術誌「The Journal of Physical Chemistry Letters」オンライン版(8月22日付)に掲載された。