2024年05月14日
九大、新しく生まれた神経回路がトラウマ減弱
【カテゴリー】:ファインケミカル
【関連企業・団体】:九州大学

 九州大学薬学研究院の藤川理沙子助教らの研究グループはこのほど、神経新生による海馬神経回路のリモデリングが、トラウマ記憶の忘却を促しPTSDに類似した症状を減弱させることを明らかにしたと発表した。PTSDとは、トラウマとなるような出来事を経験した人に発症しやすい精神疾患(ストレス障害)のこと。

 研究グループは、マウスでPTSDをモデル化するため、二重トラウマPTSDパラダイムを用いた。マウスに二度の強いショックを異なる状況下で与えると、恐怖記憶消去の障害・不安の増大・安全な環境でも恐怖を感じてしまう汎化など、PTSD患者で観察される症状に似た一連の行動が出現した。
 
 ショックを与えた後、ランニングホイールを用いた自発運動により神経新生を増加させると、トラウマ記憶とPTSD症状が減弱した。次に、神経新生の効果であるか調べるため、遺伝学的手法を用いて新生神経だけにアプローチした。新生神経の突起を伸長させ、神経回路への組み込みを促すことで、トラウマ記憶とPTSD症状が減弱した。今回の成果により、海馬神経新生がトラウマ記憶とPTSD症状を減弱させる新たなメカニズムが明らかになった。

 日本では地震などの自然災害が多く発生しPTSDに苦しむ患者は絶えない。運動や薬物など、神経新生を標的とした療法が新たなPTSD治療として活用されることで、より多くの患者の治療に役立つことが期待される。
 本研究成果は英国の雑誌「Molecular Psychiatry」( 5月8日 )に掲載された。
 
<用語の解説> 
◆神経新生 :神経細胞のもととなる神経幹細胞が、神経細胞へと分化することをいう。以前は哺乳類の神経新生は胎生期から幼年期で起こる現象と考えられていたが、近年では大人の脳でも神経新生が継続して起きていることが分かってきた。

(詳細)
https://www.kyushu-u.ac.jp/f/57223/24_0509_02.pdf