2000年04月10日
旭硝子、中期計画が順調に進展/来年夏に北九州のソーダ灰設備停止
2003年度末ROE10%目指し諸施策を推進
【カテゴリー】:経営
【関連企業・団体】:旭硝子、クレハ、トクヤマ、丸善石油化学、三菱商事

 旭硝子は10日記者会見し、中期経営計画「シュリンク・トゥ・グロー(Shrink To Grow、StoG2001)」の進捗状況と今後の施策について説明した。ディスプレイ事業やTFT-LCDガラス基板事業の拡大を進めるとともに、北九州工場では合成ソーダ灰の生産を2001年夏をめどに停止するなど、各事業の競争力の強化を図っていく。
 同社の石津進也社長は、「昨年6月に策定したStoG2001は着実に進展、順調な展開を見せており、2002年3月に連結売上高1兆5,000億円、営業利益1,000億円、ROE6%という目標は達成できる見通しである。固定費の削減については、1998年上期に比べ281億円の削減を目指しているが、需要好調のため船橋工場におけるブラウン管後部ガラス生産窯の廃棄が2001年夏まで遅れるため、効果が出るのは2001年下期以降となるだろう」と語った。
 中期経営計画における緊急構造改革(単体)は、京浜工場のフロート窯停止、鹿島塩ビモノマーからのVCM(塩化ビニルモノマー)引取停止など生産拠点の集約、事業撤退営業利益拠点の再編などにより、1999年度は160億円の削減を達成する見込みで、2000年度にはトータル255億円を予定している。また人員削減については、早期退職優遇制度の拡充などにより、1998年9月末の8,300人から900人、約10%の削減を目指していたが、2000年3月末時点で予定通り7,400人体制を実現している。

 また中期経営計画では、(1)連結経営マネジメントシステムの整備、(2)グローバル展開の強化、(3)スペシャリティ・マテリアル・ビジネスの3点を掲げているが、(1)については、現在連結における企業価値の最大化を目指して経営システムの整備を順次進めており、コーポ-レートを疑似持株会社に位置付け、コーポレートが疑似分社である事業本部や主要関係会社などのビジネスユニット(SBU)に対し、市場原理に即した資本コスト重視の事業運営を求める仕組みを構築、よりカンパニー制に近い体制を目指している。またEVAを応用した独自の部門業績評価制度を導入、昨年冬から部長級以上、今年夏からは課長級以上の賞与に反映させる。(2)については、昨年11月ブラウン管用ガラスメーカーの韓国電気硝子、英ICIのフッ素樹脂事業部門を買収、海外における重要拠点を確保した。また今年3月には特殊フッ素化技術を持つ英F2ケミカルズを三菱商事と共闘で買収、医農薬中間体の海外展開も進めている。このほかベルギー子会社のグラバーベルが英ビルキントンと共同で建設していたスペインのフロートガラス工場が3月に稼動している。このほか(3)のうちライフサイエンス分野では、今年4月独自技術ASPEXによる酵母を用いたタンパク質生産事業に参入、エネルギー分野においては7月をめどに減圧脱泡ガラス溶解技術SARを関西工場のフロートに導入を予定している。また情報・エレクトロニクス分野では高速通信が可能な全フッ素樹脂プラスチック光ファイバー「ルキナ」の本格事業化を開始する予定で、4月からASPEXと同様プロジェクトチームを事業推進部に昇格させた。

 今後の施策について、まずGrow(成長)施策としてディスプレイ事業の増産投資と医農薬中間体・原体事業の開発・製造・販売の一体化に取り組む。ブラウンディスプレイ事業では、今年4月にディスプレイ事業本部を設置、ブラウン管用ガラスバルブとLCD(液晶表示装置)用ガラス基板などの市場変化に迅速に対応できる体制を構築、新体制下で2000年から2001年にかけてグループ全体で約250億円を投じ、生産能力の増強に取り組む。ブラウン管用ガラスは、テレビの大型化・ワイド画面化、フラット化の進展により今後5年間で数量ベースでは30%前後の伸びが期待されている。特に中国・ASEAN地域での成長が顕著になると見られていることから、中国の上海旭電子玻璃有限公司、タイのサイアム旭テクノグラス、ビデオ・ディスプレイグラス・インドネシアの3拠点で増強を図り、需要増に対応する。一方、TFT-LCD用ガラス基板は、主力のノートパソコン用に加えデジタルカメラや携帯情報端末、デスクトップモニター、テレビなどの用途も拡大、年率30%以上の急成長が続いている。このため京浜工場においてTFT-LCD用無アルカリガラス基板用フロート窯を新設するとともに、100%子会社の旭硝子ファインテクノで無アルカリガラス基板の後工程となる研磨設備を増設する。旭硝子は、世界で唯一大型化に適したフロート法を採用しており、今後ガラス基板の大型化が進む中で特に優位性を発揮できると見ている。同社は、今後も市場動向をにらみながらさらに増設していく方針で、2003年には無アルカリガラス基板市場でシェア40%(現在推定30%)、売上高600億円(現在300億円)を目指す。
 また医農薬中間体・原体事業は、製薬、農薬メーカーのアウトソース化の進展にともない受託製造事業が急速に拡大しているが、その反面大手、中小を問わず化学メーカーの新規参入、事業拡大が相次ぎ競争が激化している。こうしたことから同社は顧客の幅広いニーズに応えるoen-stop shop化が必要になると判断、旭硝子本体および100%子会社のセイミケミカル、若狭エイ・ジー・シー・ファインケミカルなどに分散している事業を今年秋をめどに集約する方向で検討している。実現すれば技術の共有化や設備投資・購買コストの削減につながると見ており、医農薬中間体・原体事業の売上高を1999年度見込みの約100億円から2005年度には3倍の300億円に拡大させる。

 次にShrink(縮小)施策については、新たに北九州工場の合成ソーダ灰設備の廃棄、国内板ガラス事業の構造改革を実施するほか、船橋工場のブラウン管後部ガラス生産窯の廃棄時期を決定した。ソーダ灰事業は、歴史の長い事業で、同社は1917年(大正6年)から北九州工場で合成ソーダ灰の生産してきたが、2001年3月末に併産する塩化カルシウムとともに設備を停止、設備を廃棄することを決定した。これにともない旭硝子グループのソーダ灰供給ソースは、米国の天然灰メーカーであるソルベー・ソーダ・アッシュ・ジョイントベンチャー(SSAJV)に出資しているAGソーダに集約され、国内向けおよび自社ガラス原料用はAGソーダがSSAJV品をはじめとした米国天然灰を日本に輸出することになる。このほか天然灰にない品種については、電解事業で提携関係にあるトクヤマへの生産委託により、生産停止後も国内における安定供給を維持する方針。これらの結果、北九州工場の設備停止で解消される赤字分10億円と米国天然灰へのソース切り替えによる効果10億円を合わせ20億円の改善が見込まれる。
 国内板ガラス事業の構造改革では(1)受注・営業体制の集約化、(2)ガラス出資特約店の再編、(3)船橋工場のブラウン管後部ガラス生産窯の廃棄に取り組む。(1)については、現在支店、建築用ガラス加工子会社エイ・ジー・シーアックスおよび工場などに分散している受注機能を一元化するとともに、本社事業部のコントロール機能を強化して営業体制のさらなる効率化を図る。(2)では今年4月に近畿地区で特約店3社を統廃合して旭硝子建材を設立したのに続き、各地域で集約を進めていく方針で、現在は22社だが最終的には10社前後を目標としている。(3)としてはGrow戦略で示したアジア3拠点における生産体制の強化にともない、2001年夏に冷修時期を迎える船橋工場の老朽化設備(生産窯1基)を廃棄する。

 石津社長は、「基礎化学品においては、特に塩素の需要をどのように展開していくかが重要だ。一つは機能化学品用の原料としていかに多く消費できるかであり、また塩ビ用としては欠くべからざる供給先として京葉モノマーの存在があり、丸善石油化学、呉羽化学との一体運営を推進していく。また海外のソーダ・塩ビ事業については、現在需要が好調なASC(アサヒマス・ケミカル)をさらに拡大して行きたいし、パキスタンのエングロ旭ポリマーアンドケミカルズは、中国南部の需要に対する生産基地にもって行きたいと考えている。またTPC、TASCO、エングロ旭というトライアングルを有効活用し、アジア地域トップとしての地位を確立していく考えだ。さらに既存事業で世界へ展開していく一方で、スペシャリティ事業は国内で食っていくための新事業、新商品を育成していきたい。そうすれば多少なりとも雇用のトランスファーへ貢献できる。これからは2004年3月の最終目標であるROE10%を実現するための取り組みに集中し、着実に一歩一歩まとめていく努力をしていきたい。」と語った。