個性化、多様化に経営のポイント、常盤花王特別顧問が講演

佐藤光翔


 花王の特別顧問、常盤文克氏がわが国企業、経営者に向けて今後の取り組み方を「多様化社会に生きる」と題して講演を行った。
 
 「ここ10年ほど、米国のグローバルスタンダード論に傾斜してきたが、均一化、同時性を唱える同国の主張に対し、欧州を中心に個性化、多様化の重要性が注視されるようになってきた。最近、“日本型”という言葉がよく聞かれるようになった。もう一度、日本型を考え直してみようということだが、量を追う時代から質を求める時代に変りつつあることは間違いない。質の高さをキーワードに自分達の生き方をつくって行こう。知の経営が大切だ」という趣旨。以下、そのポイントをまとめてみた。
 
 グローバル化という言葉は1990年のはじめころから使われた。その前はインタナショナルだった。グローバル化については、いま即物的なもので、競争だけがすべて、一物一価になり、あとに何も残らないともいわれはじめた。
 
 グローバル化に向けて構築された社会が、プラスに作用している間は、それでもよかったのだが、マイナス面もではじめたといえるだろう。ひとつの仕組みができて、成長が続くとしてもやがておとろえて行く。会社の職場だって30年もたつと、いろいろな問題がでてくる。
 
 この意味で、欧州諸国の個性的で多様な生き方を注目していいと思う。日本は米国の社会を見すぎた。「米国はこうだ」という主張には説得力があった。コーポレートガバナンスというが、これは米国の文化のなかでつくりだされたもので、日本には日本の価値観、習慣がある。競争に勝つという現実のなか勝負に差がつくが、欧州はこれを批判している。
 
 欧州は英、独、仏などそれぞれの価値観がある。しかし、通貨を新しくしたり、失業対策、民族問題などをかかえ、苦しい環境のなかでガンバッている。福祉や環境と経済を組みあわせて第3の道を探っているという大きさがある。
米国を批判するのではなく、同国の市場主義はこれでいいのか、NYの同時多発テロは何だったのかと考えてみる必要がある。

 そこで日本は欧州を見直して、また、日本の価値観、習慣をふまえて、新しく生きていく道をさぐらねばならないと思う。明治時代の初頭にわが国が欧州に学んだことを想い出してはどうか。
 
 小泉内閣は構改を進めているが、ビジョンがない。アイデンティティもない。グローバル化とはそれぞれの国、人々の行き方をお互いに認め合うことだろうし、日本型を新しくとらえるならば、量から質への切り換えだ。まだ、量の意識が残存している。競争して価格を下げる。客は一瞬喜ぶだろうが価格では勝負に勝てない。デフレにつながる。国だっていまだにGDPを追っている。量−価格だけでは幸せにはなり得ない。
 
 人とは違う生き方のなかに自分を感じるという個性。これは新しい回路、仕組みをつくらないと実現しない。今の厳しい経済環境で、豊かに生き、成長している企業がある。いずれも自らの“知”がある。仕事をタテでする時代は終った。これからはヨコの関係が大切である。人をどう育てるかが課題。ものをつくりだすには外からの人々を受け入れ、ボーダレスといわれる時代の環境を生かす取り組みが重要だ。相乗的になっている間柄、システムとして結びつく社会を構築しよう。<佐藤光翔>

 

2002年05月14日掲載