「原油高、ビニル・チェーンと国際競争力」

東ソー会長

田代 圓氏

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 東ソーの業績が好調だ。10年前に描いた“ビニル・チェーン構想”が一部実現し、今や最高益更新の牽引役となっている。「日本で強いだけではだめ。まずアジアで勝てないと」と、田代会長、表情は穏やか。だが、そのために同社が塩ビメーカーと見られがちなことには不満なようで「実際に利益の半分は機能商品で占めているのに目立たないのか。これからも収益安定のために、これらの部門を強化していきたい」。原油高には「化学品の場合、やはり国際的な需給均衡に救われている面が大きい」と解説。

━50ドル原油時代、化学業界としても大変です。どう対応していきますか。

 原油とか石炭といった資源問題はわれわれがコントロールできる範囲にない。対応策といっても難しく、一義的には価格転嫁していくしかない。でないと事業が続けられない。石油化学でいえばフィードストック(原料)の多様化など、ないわけではないが、それでも20ドルが50ドル、60ドルになってはどうにもならない。

━価格転嫁は、比較的順調にいっているようです。

 転嫁を可能にする条件が整っているということだ。世界的に需給バランスが供給タイトの状態で推移している。そのため国際市況が上がり、国内の価格転嫁もある範囲の中でできている。

 背景の一つには中国の圧倒的なマーケットがある。中国の石油化学はこのところ毎年8~10%という高い伸びを続けている。塩ビにしても10%以上伸びている。この勢いはこれからも簡単にシュリンクすると思えない。それに米国も一時雲行きがあやしかったが、今はそう悪くない。欧州、アジアも同様だ。日本経済も今は底入れした。中国経済が突出した形で牽引車の役割を果たしているのは確かだが、世界的に見ても需要は強い流れになっている。

━一方の供給能力は、増えていません。

 その通りだ。この10年業界は低マージンに苦しみ、投資意欲が低下していた。それどころか、再編・集約化が進み非効率なプラントが淘汰されてきた。海外でもずい分アライアンスが行われてきた。今産油国にいくつか投資計画があるが、それもインフラ・ネックなどから、オンスケジュールになったものは少ない。そういうことで今は、非常に強い需要と、制約された供給能力の中にある。

━そうした状況のなかで東ソーは「ビニル・チェーン構想」に取り組んでこられた。高コストの日本でつくり中国へ輸出するというのは、世間と逆の流れに思えました。

 「ビニル・チェーン構想」を打ち出したのは1994年だから、もう10年になる。確かに日本は高コスト構造だし市場も伸びないといわれていた。当時も「いかがなものか」といった声は私の耳に入っていた。しかし日本の高コスト論というのは、あくまで平均値の議論だ。塩ビの場合も、一番コストの高いところと低いところとでは大きな差があった。

 それに日本は、すでに世界のグローバルマーケットの中に組み込まれている。日本のなかでコストが安いだけではだめだ。世界との競争とくにアジアでの競争に勝てなければ日本にいても勝てなくなる。逆にいえば、日本でグローバルなコスト競争力がもてれば、海外でもやれる。

 発電から電解、VCM、PVC、加工製品へとつながる、当社の「ビニル・チェーン」は、南陽(山口県)という理想的な立地と、港湾・電力などのインフラに恵まれていて、コストポジションは非常に高い。日本だけでなくアジアでも十分な優位性をもっている。だったら中国でもやれるだろう、チャンスはあると考えた。基本的にこれは間違っていなかった。イソシアネートも同じ発想だ。

━南陽ではVCM40万トンの増設につづいて、さらに大型化すると。

 今の工事が完成すると、電解ソーダは年産120万トン、VCMが148万トン、MDI20万トン、アニリン15万トンと、アジア最大規模の「ビニル・イソシアネート・チェーン」ができあがる。子会社の保土谷化学、日本ポリウレタンと一体で構築する。だが中国などの需要はまだ強い。それに当社はこの数年まとまった投資をしてこなかった。

 さらにこの先には電解ソーダ150万トン、VCM168万トン、PVC120万トンにしようと、今自家発電設備220万設備の建設に向けた環境アセスメントを行っているところだ。

━塩ビ計画は中国・広州市にもあります。

 広州市の南沙経済開発区に日本側100%出資の子会社をつくり、PVC年産11万トン工場を建設する予定だったが、新たな投資基準に合わせるため、第2期倍増計画を前倒しして当初から22万トンでスタートすることにした。完成は半年遅れて06年末になるが、とくに大きな支障はないようだ。

━総合化学会社というより「塩ビメーカー」のイメージが強くなります。

 そう見られるかもしれないが、当社は塩ビモノマーなどの「基礎原料」と「石油化学」、「機能商品」と3つのコアを柱に事業展開している。だが石化には中長期的に見た事業性の問題が一つある。競争力をつける必要はあるし、そのための工夫もしているが、センター会社の中には産油国に生産拠点を確保する動きや、リファイナリーとの結びつきを強める動きが出はじめている。そうした変化を見極めていく必要がある。

 機能商品は、目立たないかもしれないが、科学計測や電子材料、有機化学品など着実に業績を拡大している。将来飛躍できる可能性があるというので、今度科学計測の新分野として遺伝子診断システムを立ち上げた。塩ビのような国際商品は収益が変動しやすい。当社は、別の安定したサイクルをきちっと確立しておかないといけない。この部門で利益の半分は出せるようにしようと、選択的に重点投資しているところだ。

━9月中間期決算は大幅増収益になりました。次の目標は何ですか。

 中間期では一応いい決算が出せたと思っている。VCMなどの主要製品は海外市況の上昇で売上げが増加したし収益もあがった。機能商品も好調だった。ただ当社の場合、海外市況要因が大きく、紙一重のところで動いている。今後のことも、原油価格の動向は不透明だし、今の需要の伸びがいつまで続くのか、サプライ構造がどうなっていくのか、先読みができない。当社としては、もっとより安定した収益が得られる体質にしたいと思っている。