「最高益決算と海外戦略」

 

住友化学・米倉弘昌社長に聞く

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 「3月期業績は出来すぎだ」と米倉社長。ラッキーな面もずい分あったという。だが、海外売上比率は38%と高く、韓国などに積極投資してきたことが今回の大幅増益につながったことは間違いない。次の大きなプロジェクトは、サウジ・ラービグ計画。石油と石油化学が一体になった世界最大級のコンプレックス建設に挑戦する。「イランのような心配?そんなの全然ないよ」と楽しそうに笑った。持ち前の強い個性とリーダーシップで、ぐいぐい引っ張っていきそうだ。

━3月期決算は、連結売上高1.3兆円、最終利益645億円と過去最高でした。感想は。

 出来すぎだと思う。ラッキーな面もあった。石油化学は原油、ナフサ価格が大幅高騰したが、中国、アメリカの経済が好調だった。このためアジアを中心に製品市況が上昇し、十分ではないにしても、ある程度コスト高が吸収できた。
 
 情報電子関係も、昨年夏ごろから在庫調整期に入った。「パネルの値段が半分に下がれば、需要は10倍に増えますよ」と聞いていたのに、実際にはそうはならず、需要はスローダウンした。だが、当社の偏光フィルム、カラーフィルターなどは、パネルメーカーのもっている能力に比べて、まだ規模が小さい。それに当社は、昨年初めにタイミングよく、韓国にフィルムの第1、第2工場を垂直建ち上げした。これがスタートから好調だった。そのためいくらか余力ができ、大変ではあったが影響は少なくて済んだ。

━今年はどうなりますか。いろいろな見方があります。

 石化でいえば、アジアの需要と市況がどう推移するかだが、去年よりは若干落ちるのではないか。中国ではBASFなどいくつかのセンターが建ち上がる。そこで何らかの意識的な調整があるかも知れないという人もいる。ただ中国の需要そのものは堅調が続くだろう。石化品も11%とか12%といった伸びが予想されている。日本の石化各社も何とか昨年並みは維持したいというところではないか。

━原油価格の動向次第という見方が強いようです。

 そう。しかし、第2次オイルショック当時に比べたら今はまだいい。あのときはナフサ価格が急上昇し、日本やアジアの石化品需要が大きく落ち込んだ。当社のシンガポール工場も第1期が完成した後1年間スタートを遅らせたほどだった。あの当時に比べれば最近は、原油価格が50ドルを超えたといってもマイナス成長にはならず、世界経済や日本経済に与えるインパクトもそれほど大きくはない。中国経済に支えられている面があるとはいえ、産業界もそれだけ弾力性をつけている。

━06年3月期の業績予想は、売上高1.5兆円、経常利益1,100億円、最終益650億円となっています。やや控えめに見えます。

 今の中期計画では、最終年度の06年度の目標を売上高1.33兆円、純利益650億円と設定していたが、04年度に前倒ししてほぼ達成してしまった。しかし、かといって今後に楽観はできないし、あまり大きな見通しを立てるわけにはいかない。ただ、今回は為替を円高の1ドル100円、ナフサを38,000円と予想した。それだけの重石をつけたつもりだ。

━住化の場合、海外売上比率が高い(38%)のが特徴のようです。グローバル戦略が進んでいるというところですか。

 最近は設備投資の大半が海外だし、比率も当然海外が高くなってくる。今年も海外では、台湾にフィルム第2工場、韓国にもフィルム工場、シンガポールにはMMAモノマーなどの新プラントがスタートする。国内投資というとメチオニンぐらいしかないが、そのメチオニンも輸出用がほとんどなので、海外比率はまた上がることになる。

 国内では、ほかに千葉でポリプロピレン生産体制の再編がある。設備を今の3系列から2系列に集約化する。能力は変らないが、固定費を削減する。また自動車用PPを気相法に転換する。プロピレンオキサイドを15万トンから20万トンに増強する。あとEPDMの増設などといった計画はいくつかあるが、全体的に見れば海外の方が圧倒的に大きい。今年の投資予算は年間800億円から1,000億円ぐらい。それほど大きな計画はない。

━ダウから高分子有機EL用材料事業を買収したり、というのもあります。

 あれはダウの社長から直接相談があり実現した。その前から当社とダウは技術開発をめぐって激しく競り合っていた。当社としてはダウの技術も使えることになったわけで、将来の展開がしやすくなる。海外戦略といっても、何でも積極的にやるというわけではない。既存事業とのつながりなどを考え、面でやる。パラシュート的にやるつもりはない。

━海外といえば、サウジ・アラムコとのラービグ計画があります。FSはどこまで進んでいますか。

 すでに最終局面に入っている。投資額でいえば、誤差の範囲をプラス・マイナス10%以内まで詰めるといった作業をやっている。プラントの規模は前回発表した通り、PE年産90万トン、PP70万トン、それにEGやPOなどを考えている。それらの一つひとつについて、規模や品質、性能などを落とさずにどれだけ投資額が抑えられるかという作業をやっているわけだ。7月中にはほぼ最終案がまとまる。そのあとで合弁契約に正式調印する。

━操業開始は08年とか。投資リスクは大きくないですか。

 いや、それほどでもない。当初計画では総投資額は約43億ドル。建設資金は、ラービグの資産を担保に融資を受けるというのが基本的な考え方になっている。かりにプロジェクト・ファイナンスを70%とすれば、資本金は30%となる。50:50の会社だから、当社の負担は15%だ。工場は08年スタートという当初計画通りに進んでいる。

━立地的には魅力がありそうですね。

 立地は申し分ない。アジアや中国のマーケットに近い。紅海沿岸にあるから、スエズ運河の向うはヨーロッパだ。運賃でいうと、シンガポールから上海へ運ぶのと、ラービグから上海へ運ぶのとではキロ1円ぐらいしか違わない。安価な原料が手に入る。石油精製と一体になった、世界最大級のコンプレックスになるというのも大きな強みだ。

━現地の政情や治安状況が気になりませんか。

 不安はまったくない。確かに一時テロ騒ぎはあったが、あれは、そのあと犯人たちが投降してきて解決した。大体あの国は、王室一家を中心として、政治的にはよくまとまっている。治安対策にも非常に力を入れている。最近は地方選挙をやったりと、民主化に向かって進んでいる。

━かつてのイラン石化プロジェクトのようなことにはならないと。

 (笑って)そんなことはありえない。イランのときは、外資の工場はあまりなかったし、それもまだ完成していなかった。今、サウジには世界中の何十という有力企業が進出している。何かあったら、それこそ国際的な問題になる。そんな心配は全然していない。