“世界企業”への自覚と戦略

 

三菱ケミカルホールディングス社長
三菱化学社長
小林喜光氏

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 三菱ケミカルホールディングスは、10月から三菱化学、田辺三菱製薬、三菱樹脂の3社が傘下に入り、売上高2兆9,000億円と、世界のリーディングカンパニーに仲間入りした。「基礎化学と機能商品、医薬品の“3本柱”の強みを活かし、社会に貢献する化学会社を目指す。大きな夢をもった会社にしたい」と小林喜光社長、表情は明るく、話も“立板に水”だった。

— 世界のリーディングカンパニーと売上高で肩を並べました。感想は。

 売上高は20ビリオン、3兆円というところで、化学業界のとらえ方により変わるが世界第6位になるらしい。売上げはこれからも伸ばしたいが、欧米の化学企業は最近はバイエルにしてもダウやデュポンにしても、医薬品でいくとか、ケミストリーでいくといったように、方向性を絞ってきている。しかし、当社は、ベーシックなケミカルと、高い機能を付与したパフォーマンス型のケミカル、それに医薬品の“3本柱”からなっている。この3本柱を大事にしていきたい。

— 3本柱を持つ“強み”はどこにありますか。

 何よりも安定性だ。たとえば、医薬品は今は確かに利益も出ているが、20年先はどうだろうか。高齢化が進み、厚生行政や医療制度がどう変わるかわからないというリスクがある。また、研究開発にものすごく時間や費用がかかるが、リターンとしての新薬が出てくる確率は下がっている。

 機能商品はどうか。当社は、新三菱樹脂を含めて加工型のパフォーマンス・ケミカルを展開していくが、光ディスクのようなエレクトロニクス商品は、あまりにも寿命が短かい。商品ライフはどうかすると半年、長くても3〜5年しかない。それでいて投資額は大きい。こういった商品は今は利益も出て調子はいいが、いつまで続くのか、永続性という点で不安がある。

 一方、石炭化学、つまりカーボンをベースにした従来型のケミストリーには、当社は70年の歴史があり、これまでも波はあったものの安定した業績を残してきた。石油化学も中東や中国、インドにコンペティターが出てきて大変だけれども、リファイナリーと協力していけば、まだ何とかやっていける。その意味で、事業基盤は比較的しっかりしている。
 
 ホールディングスとしては、こうした3つの事業が持つそれぞれのリスクや長所をよく見て、バランスよく伸ばしていきたい。それが今後の課題だが、その意味でも3本柱は重要だ。

— どんな“世界企業”を目指しますか。

 今、08年度以降の新中期経営計画を策定中だが、そこには2025年を見据えた戦略を組み込むことにしている。10年先、20年先の社会がどうなっているかを予測し、それに化学会社として、どんな貢献ができるかが、今後のポイントになる。
 
 そこで、まず2025年を目標にした「ありたい姿」を描き、ではその前の2015年にはどうあるべきか、「あるべき姿」を具体的にまとめる作業をやっている。来年の2月ごろには発表できると思う。
 
 数字的なことをいえば、08年3月期決算は、売上高2兆9,000億円、営業利益1,400億円以上、ROA5.5%以上という当初目標はほぼ達成できる。だが、その先の2008年度以降はどうかというので、今、その作業を足し算式にやっているところだ。

— その場合、何がキーワードになりますか。

 これから先、15年、20年後の社会に何が必要かと考えると、一つにはまず間違いなく「環境」問題がある。CO2削減はこれからも重要な課題になる。当社も化学の力を活かして貢献していくべきだ。
 
 次には「健康」だ。日本は高齢化社会に入って、健康志向がこれから一層強くなる。病気のケアだけでなく、IT技術なども取り入れて医薬と診断の融合を図り健康と医療の両面で貢献していきたい。
 
 3つ目は「快適さ」の追求だろう。より気持ちよく快適な毎日を過ごす。そこへ化学会社としての役割を果たす。企業活動の方向性は、この3つがキーワードになる。

 ことに健康でいえば、この4月、三菱化学の中に三菱化学メディエンスという医療関係の3つの会社を統合した新会社を誕生させた。病気をクスリで治すだけではなく、病気にかからないよう診断し予防する。シックケアからヘルスケアを目指す。
 
 また同じクスリでも効く人と効かない人がいる。そこでモニタリングして、それぞれの人に合った最適のクスリを用意する。最近、こういったきめ細かい医療を「個別化医療」といっているが、これをしていくには、化学と医薬品の両方を持った当社は有利だ。

— 従来型の化学、石油化学事業の展開はどうなりますか。

 当社は化学をベースにした会社ではあるが、中東にまで原料を求めるつもりはない。エチレンセンターも持ちつつ、高度化されたファインケミカル事業を展開していきたい。コークスを70年やってきた炭素化学の歴史がある。カーボンファイバーとか、ナノチューブなど将来的に楽しみだ。石油化学は中東、インド、中国などの台頭があるが、当社もアライアンスやリファイナリーを含めて対応していけば、まだやっていける。そうした方策なども新中計に盛り込みたい。

— 成長戦略としての研究開発にはどんなテーマがありますか。

 成長マーケットをターゲットに、7つの研究テーマを考えている。1つは固体照明・ディスプレイ、有機ELなどのエレクトロニクス分野、次にガリウムなどの複合材料、3つ目は自動車の軽量化につながる省エネ材料、4つ目は植物由来のポリマー、その次にハイブリッド自動車用リチウム電池材料、6つ目は個別化医療、最後が有機太陽電池だ。

 有機太陽電池というのは、今の太陽電池と違って、ペラペラのフィルムのような形の電池と思ってもらえばいい。洋服のように着れば暖房衣料になるし、壁に貼り付ければ照明材料にもなる。ただ実用化には早くても10年かかる。将来、そういう新しいものがどんどん出てきて、私たちの生活がより豊かになればいい。企業としても、そういう大きな、楽しい夢を持ちたい。

— 3社一体のシナジーも大きいのでは。

 その通りだ。最大限それを活かしていかないといけない。ただ、当社は事業ごとの縦の線は強いが、横のつながりは十分でない。商品の出口、つまり行き先は自動車、エレクトロニクス、住宅、日用品といったように、同じところへ出ていくわけだから、成長するマーケットに、しっかりと“横串”というか“横糸”を通して機能を強化していきたい。

— 化学業界の今後にはどんな課題がありますか。

 一つには、メーカーの数が多すぎる。自動車業界は売上高65兆円のうち、トヨタが3分の1を占めている。電機業界も85兆円のうちトップの日立製作所は10兆円を売り上げている。化学業界は25兆円とか30兆円のうち、トップの三菱化学は15分の1しかない。群雄割拠というのか、弱小割拠というのか(笑)

— アライアンスがどうしても必要と。

 そう思う。ただ、化学業界の売上高利益率は8%ぐらいあって、他の業界と比べても高い。いい製品や材料を作っている会社は、利益もしっかり上げている。このようにお互いにうまくいっている時は、誰も一緒にやりたいと思わない。医薬業界でアライアンスが進んだのは問題意識が高かったからだが、化学業界はよほどいい組み合わせでもないかぎり、今は簡単にはいかないと思う。

— 健康法も兼ねて“早寝早起き”に挑戦中と聞きました。

 女房が怖いから(笑)。ただ、私が尊敬している一流経営者は皆さんそろって朝が早い。私もまねして、夜は早く寝て朝は5時半に起き、7時半には出社している。社長でいる間は守ろうと思っている。