宇部興産・竹下 道夫社長
 
 「規模を求めるより、技術・ 品質で差別化」

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宇部興産の新中期経営計画「ステージアップ2012−新たなる挑戦」が4月からスタートした。激化する国際競争の中で、一層の収益基盤強化を図ろうというもので、そのために競争優位性のある(1)医薬(2)電池材料(3)ファインケミカルの3事業を「最重点事業」と位置づけ、拡大していく方針だ。竹下社長は「規模を求めるより、技術と商品で差別化していく会社にしたい」と“挑戦”に意欲をみせる。言葉も明快だった。

—最重点事業のトップに医薬品事業があがっています。これまでとどう変わるのですか。

竹下 医薬品では現在、抗アレルギー剤、血圧降下剤、抗血小板剤の3剤を製薬会社と共同で上市しているが、商売のやり方は専業メーカーと異なり、最終製品までは自分でつくらない。臨床試験などもやらない。いわばファインケミカルの延長線上にあるわけだ。ただ、あとに続くものをパイプラインに乗せていくことが大事で、毎年1つか2つは次の候補を見つけていくようにしたい。規模は大きくなくても収益面で安定させていきたい。

もう一つ、今、医薬品メーカーから原体製造の受託事業をやっている。これは今後、特許切れ問題などもあり、事業としても活発になっていくと思う。医薬事業は将来性という点でも重要だ。2012年には営業利益ベースで今の2倍にはしたい。

—電池材料事業も成長分野として期待できますね。

竹下 リチウム電池用の電解液、セパレーターなどをやっているが、電解液の技術水準やセパレーターのコスト競争力は世界トップレベルだと思っている。今後、車載用にどう展開していくかが鍵になる。ただ、自動車はEV(電池自動車)よりもHEV(ハイブリッド)の方が、普及が早いだろう。EVの大衆車が普及するにはまだ時間がかかる。いずれにせよ、車載用には積極的に出ていきたい。うちの電池材料はコスト的にも技術的にも優位に立っているので今後さらに競争力を強化していきたい。生産能力なども増強するつもりだ。

—事業規模としてどのくらい期待できますか。

竹下 電解液、セパレーターともに、車載向けが出始めるだろう2015年には生産能力を今の3倍ぐらいにはしたい。

—ファインケミカルもさらに伸びると。

竹下 うちはこれまで、ファインケミカルでは赤字になったことがない。毎年着実に伸びている。塗料・接着剤・樹脂原料、香料・化粧品、医農薬原料と種類も多いが、ポリウレタン原料・自動車塗料原料のPCDや香料ヘリオフレッシュのように市場に競合品のないものもある。こういったものは市況の影響も受けず、いつもフル稼働・フル販売している。今、収益面で一番伸びが大きいのは、多分ファイン関連だろう。

—これら3つの成長戦略事業でどの位の利益を予想していますか。

竹下 営業利益ベースでいうと、2012年度の全社の目標が530億円以上で、このうち化成品と機能・ファインで全体の7割弱。あとが医薬、建材、機械・金属成形部門といったところになる。

ただ、経営上大事なのはベースラインである中核基盤事業だ。成長戦略事業も大事だが、基盤事業はそれ以上に大事で、たとえばナイロン・ラクタム、合成ゴム、セメント、機械などの中核部門がしっかりしていないと、成長戦略は成り立たないことになる。

—今後は、海外展開が一つのカギになりますね。

竹下 その通りだ。今、うちの海外売上高比率を見ると、売上高全体では約28%だが、この中にはセメントとか石炭、電力といった国内向けが含まれている。これらを除けば海外比率は約45%で、化学関係の同業他社と比較しても遜色はない。売上げ構成は中国を含むアジア地域が75%、ヨーロッパ18%、北米7%で、アジアの比率が高いが、この傾向はこれからも続くだろう。タイにも生産拠点を持っているので、日本からでも、タイからでも供給できる強みを生かしたい。

—今度ブラジルにも拠点を設置されました。グローバル展開加速ですか?

竹下 7月1日付でサンパウロに営業所を開設したばかりだ。当面はナイロン・ラクタムの販売が中心だが、硫安などのビジネスも開拓していく。現地には日系企業も多いし経済成長も著しい。行く行くは機械にも拡げていきたい。機械など将来は“拠点”になり得るのではないかと思っている。

今後はこのように成長が見込まれる新興国に積極的に出ていってマーケットを開拓していきたい。原料から一貫して展開するような大きな投資までは考えない。うちは、カプロラクタムでは世界有数のメーカーと自負しているが、それでも生産能力は40万トンで、全世界400万トンからみると10%に過ぎない。その意味でグローバル展開といっても、感覚的には他社とやや違うかも知れない。

—これまで不採算部門の縮小・整理にも長年かけて取り組んできました。体質改善なったのでしょうか。

竹下 再生事業に位置づけているホイールは、背水の陣でコストダウンに取り組んでいる。ようやく見極めがついたというところだ。今年度第1四半期の連結決算では最終利益が17億円の黒字に転換できたし、今は関係会社の中にも赤字会社がほとんどなくなった。生コンも全体で見れば黒字というところまできている。

—10年、20年後の宇部興産にどのようなイメージを?

竹下 うちは規模の大きさを求めていく会社ではない。それよりしっかりした技術をもち、商品で差別化できる会社にしたい。これは私の言葉ではないが、“宇部でもできる”ではなく“宇部ならできる”といわれる会社にしたい。それが私の理想だ。