東ソー社長 宇田川憲一氏
 
「個性豊かな総合化学会社を目指す」

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化学業界には収益回復にようやく明るさが見えてきたが、中でも東ソーの決算は好調だ。アジア最大の塩ビ・ソーダメーカーだが、コモディティだけでなく機能商品群を伸ばし、クロル・アルカリ、石油化学とともに3つの分野をバランスよく拡大する戦略をとってきた。宇田川社長も「世界で戦っていくためには収益力が重要だ。数年内には経常利益率10%を達成したい」と方針は明快だった。

—東ソーの業績回復が順調のようです。2014年3月期の予想は売上高が前期比9%増の7,300億円、最終利益は36%増の230億円となっています。好調の原因はどこにありますか。


好調といえるのかどうかはともかく、公表した予想数値だけは何とか達成したい。これまで当社は“ハイブリッド・カンパニー”を目標に掲げてきた。クロル・アルカリと石油化学のコモディティ、機能商品のスペシャリティの3事業のバランスをとりながら拡大していくという考え方だ。そして売上高より収益を重視する。2013年度の経常利益は5.7%だったが、この程度ではだめだ。数年内には10%を達成したい。

—そのためには何が必要ですか。


1つはスペシャリティ事業の拡大だ。既存の機能商品の量的拡大、地理的拡大を優先する。
たとえば南陽事業所では今度ハイシリカゼオライトの増設を決めた。合成ゼオライトの1つで自動車の排ガス処理触媒などとして使われているが、自動車の排ガス規制(NOX)は世界各国で強化されつつあり樹脂は将来的にも伸びる。工事は来年9月に完了するが、完成後は世界のトップシェアになるはずだ。

機能商品ではほかにファイン・セラミックスのジルコアが好調だし電解二酸化マンガン、バイオサイエンスなど独自技術を持ち差別化できる商品、技術も多い。これらの製品で着実に利益を積み上げていくことができる。これからが楽しみだ。

—エチレンアミンでは大きな決断をされたのでは。


エチレンアミンは南陽にある三系列のうち、1967年からやっている第一系列を廃棄することにした。中国で設備の新増設が相次ぎ需給バランスが大きく崩れた。欧米市場の伸びも期待できない。このため収益力のあるハイアミンを中心に生産・販売を強化していくことにした。

—クロル・アルカリ事業は日本ポリウレタンの完全子会社化で“ビニル・イソシアネート・チェーン”構想に一区切りついたことになりますか。


いや。イソシアネートはまだ国際的に見て事業環境が厳しい。チェーン体制はできたが、プロセス変更など製造コストの削減はこれからだ。アジア地区での需要拡大や交易条件改善なども含めて、さらに収益拡大を目指さないといけない。

—石油化学事業は課題が多いようです。四日市のエチレンにはどのような展望を?


四日市のエチレンプラントは、今でも90%以上の稼動率で操業しているし、今後もこのペース維持していくことができればいいと思っている。誘導品の中には高密度ポリエチレン(HDPE)のように、輸入品が入ってきて苦しいものもある。こういった稼動率の戻らないものは縮小せざるを得ないが、要は、これに代わる新しい機能製品が出てくればいいわけだ。その点でいえば、四日市はまず心配ない。エチレンは全国に500万トンあればいいといった意見もあるけれど、四日市では今後も90%以上の稼動は維持できると思っている。

—米国ではシェールガスの開発計画が盛んです。日本の石化メーカーとしてどう見ますか。


日本の石化メーカーとして原料的に脅威かどうかということであれば、今のナフサと比べても有利な面とそうでない面があり、何ともいえない。大ざっぱに言って、天然ガス価格が下がればナフサ価格だって当然下がるだろうと言う人もいる。石炭価格にも影響してくるだろう。そのへんはこれから注意して見ていきたい。

—2014年に向けての課題には何がありますか。


やはり安全対策と収益力の拡大だ。安全は企業存続の大前提だし、これまで以上に安全な化学メーカーを目指して取り組む。収益面では今も言ったように、コモデティとスペシャリティのバランスをとりながら拡大していく中で重心をスペシャリティのほうに移していく。ハイシリカゼオライトの増強やアミン系ウレタン発泡触媒、またグループ企業ではリチウムイオン電池向けフッ素化合物の開発など、すでに取り組み中の計画がいくつもある。

国内経済はアベノミクス効果が期待できそうだが、化学業界の環境はなお内外とも厳しい。当社としてはこうした厳しい国際競争に勝ち残っていくためにも、個性豊かで収益性の高い総合化学メーカーを目指したい。