機能樹脂・レオナ事業部門の事業戦略

 

旭化成工業 専務

荒浪 淳 氏

J.ARANAMI

 旭化成工業の機能樹脂・レオナ事業部門は、今後も変性PPE(ポリフェニレンエーテル)やナイロン66などの事業で積極的に投資していく考えだ。一方で1999年3月期の業績についても、ナイロン66繊維がようやく収支トントンとなり、ほぼ全事業が黒字化する見通しとなっている。今後の事業戦略について、機能樹脂・レオナ事業部門長の荒浪淳専務に話を伺った。

━各製品の昨年の販売状況をお聞かせください。

 各製品とも、1年半前のアセアン経済危機以降、需要が落ち込んでいたが、昨年の5〜6月頃からかなり回復してきた。設備も、POM(ポリアセタール)のホモポリマー以外はフル稼働となっている。どの製品も内需は横ばいであったが、輸出は韓国や台湾およびアセアンの回復により数量面は回復した。ただし、円高傾向にあるため売上高は微増にとどまっている。

━いくつかの製品で値上げを進めていますが、進捗状況は。

 ナイロン66樹脂や変性PPE(ポリフェニレンエーテル)は昨年10〜11月にかけて値上げを打ち出し、満額ではないが決着した。またアジピン酸は、昨年前半に輸出価格を一度100ドル値上げしたものの、その後値下がっているため、今年第1四半期中に再度100ドルの値上げを実施する考えだ。このほかPOMについても日本を除くアジア地域においてローカル向けで陥没している部分の価格修正を開始した。この結果、アジピン酸はトン当たり1,250〜1,350ドル、POMは1,500ドル以上を目指す。

━昨年11月には千葉の変性PPEの能力を引き上げましたが。(注:年産3万トン→3万5,000トン)

 おかげさまで需要は好調で、昨年8月以降はショートポジションとなっていた。在庫が減っていたことから、現在は増強分も含め設備はフル稼働となっている。ただし、1年ちょっともすれば再び足りなくなるだろう。

━さらなる増設が必要ということですね。他の製品も含めた新増設計画については、どのように考えていますか。

 変性PPEの増設は原料である2,6キシレノールとセットで考えなければならないが、今年の早いうちに方針を固め、2002年中には日本かアジア(タイやシンガポールなど)に建設したい。
 ナイロン66については、2001年中に2〜3万トン増強、ナイロン66樹脂向けを中心に増産を図る。またタイヤコードもできるだけ早期にデボトルで増産する。
 ナイロン66原料であるアジピン酸は、各社がアジア展開のため新設を検討している中で、計画が乱立する恐れがあるため、(他社への牽制の意味も込めて)検討している。ただし、今後のグローバルな競争を考えると単独で5万トン程度の設備を作るよりも、他社とのJV形式で10万トン規模の設備を建設したほうが良いと考えている。シクロヘキサノールも同様だ。ただし、当社がカプロラクタムの外販に参入するのではないかと言われているようだが、技術的な面を含め今から既存のメーカーに追いつくのは難しい。それよりもカプロラクタムのメーカーと良い関係を築き、そのメーカー向けに安定供給できれば良いのではないだろうか。
 ナイロン66のチェーンは長い。投資計画は、慎重に考えていきたい。

機能樹脂・レオナ事業部門の設備計画(表)

━現在、延期しているシンガポールのPOM計画はどのように考えていますか。

 我々にとって大きな問題だ。今後市況も需要も回復し、計画を再開するとしても単独ではやりたくない。できれば、どこかと共同で行いたい。
 一方で、昨年発表したコポリマーの「HCシリーズ」がホモポリマー並みの機械特性を持っていることから、ユーザーから高い評価を得つつある。当面は、HCシリーズの拡販に力を入れていく考えだ。

━機能樹脂・レオナ事業部門は、昨年春から業績評価の指標にEVA(経済付加価値)を導入していますが、今回全社的に導入することになりました。

 特に他の事業部門に比べ有利ということはない。ただし、EVAの概念について少し理解が進んでいるかもしれない。EVAは、単純に黒字かどうかがつかみにくいが、多くの設備投資計画を抱える我々にとっては、その投資効率が問われることになる。現在EVAは若干の黒字というレベルであるが、2001年には10〜20億円の黒字を確保したい。