先ずは20年先を見据えたポートフォリオ作りを

 

旭化成取締役(化成品・樹脂カンパニー社長)

藤原 健嗣 氏

 旭化成の化成品・樹脂カンパニーの社長に藤原健嗣取締役が就任して3ヶ月が経過した。旭化成といえば、今年10月1日に中核事業すべてを分社化し、それぞれの事業部門が「スピード経営」と「自主自立経営」の徹底によって環境変化に機敏に対応しつつ着実に発展していける体制に改めることにしている点が関係各方面から大きく注目されているところ。化成品・樹脂カンパニーも、同日をもって「旭化成ケミカルズ」に衣替えして再出発する。藤原さんは、その時点で新会社の代表取締役社長に就任することになっている。そこで、「旭化成ケミカルズ」が厳しい国際生存競争をどうやって勝ち抜いていくかのグランドデザインを聞いてみた。

 

━しばらく振りに旭化成の化成品・樹脂事業部門に戻っての印象は。

 私の場合、昭和44年に入社してから19年間は水島工場にいてその間の多くをエチレンの製造現場で過ごし、またその後も、企画部門でセンターの拡充や内外の石化企業との事業提携の計画作りなどに携わってきた。けれどこの10年は、専らエレクトロニクス関連の仕事に従事してきたので化成品・樹脂の分野とは直接のかかわりを持つ機会がなかった。
 
 久しぶりに戻ってきて見ると、化成品・樹脂部門もずいぶん変わったなという印象を受ける。それも、良い方向に向かって大きく変化してきている点を実感できる。理由は三つある。一つはコストダウンとスリム化が進んだことだ。この数年で合計200億円ものコストの合理化を果たした点はやはり評価されてしかるべきだと思う。
 
 もう一つは世界に通用する強い誘導品の育成が順調に運んでいる点だ。AN、SM、PSなどでは国内のみならず世界の市場でリーダシップを発揮していけるようになっている。もう一点は、付加価値の高い新製品が順調に育ってきていることだ。MMAポリマー、超高分子量ポリエチレン、熱可塑性エラストマーなどが例として挙げられる。

━しかし、石油化学の世界では国際競争が一段と激しさを増しつつあります。分社化を機にどんな手を打っていきたいと。

 体質をかなり強化できたとは言え、当社の場合もまだ事業の中心は、激しい国際競争が続くバルクケミカルとなっている。やはり、10年先さらには20年先を見つめた新しいポートフォリオに早急に変えていくことが必要だ。
 
 ついては、高付加価値型製品事業の拡充が最大の課題だ。「旭化成ケミカルズ」の発足を機に、従来の“素材提供型の企業”から“高付加価値の製品なりシステムなりを提供する企業”へと脱皮していくようにしたい。
 
 さいわい当社には、世の中のニーズにきちんと応えていける高付加価値製品が多い。エンジニアリング樹脂だけでなく、感光性樹脂、イオン交換膜、水処理フィルター等々多彩だ。これら単品として伸ばすだけでなく、他の様々な材料と組み合わせて新しいニーズによりきめ細かく対応していけるシステムに仕上げていくことで新しい領域を切り開いていくようにしたと考えている。

━売上の規模よりも収益を重視していくべきだということですか。

 その通りだ。現在は売上げ高の5〜6%の経常利益を上げればそれでよしとされているが、当面の目指すべき経常利益率は少なくとも8%であり、その先は10%であってしかるべきだ。それを実現するには、やはり売上げの半分以上を高付加価値製品で占めるように持っていく必要がある。むろん容易ではないが、ぜひ実現したい。

━いつの時点でそれを実現したいと考えていますか。

 5年以内が目標だ。05年にはあるていどはっきりした姿を出せるようにしたいと考えている。

━そのためには研究開発力とマーケティング力の強化が不可欠です。

 特にこれからの化学企業の行方を大きく左右するのはマーケティング力だ。素材メーカーの視点だけでマーケットを捉えていくと新しい市場は見つけられない。この点は十分認識してかかる必要がある。ただし、まったく新しいものを手がけようとしても効率が良くない。既存の技術や製品の枠を拡げることによってマーケットのニーズに十分応えうる製品やシステムを数多く開発していくこと、これが大切ではなかろうか。
 
 伸ばすべき分野は、エレクトロニクス、ヘルスケア、環境、エネルギーの四つの分野と考える。先ほど述べたように、当社にはこれらの分野でも独自の基盤を構築していける機能を持つ製品がいくつも存在する。これらをうまく組み合わせることで開拓していけるマーケットはうんとあると確信している。

━一方のバルクケミカル部門には、どんなビジョンを。

 基本は、コスト競争力を一段と強化してアジア地域全体で引き続きしっかりリーダーシップを発揮していくことだ。ANについてはこの春から稼動させている韓国・東西石油化学の新プラントの持つ強みを、またSMでは今年末に水島に増設する大型新鋭プラントの持ち味をそれぞれ十分に生かして中国をはじめとしたアジア地域全体における基盤をさらに強化していきたい。ANでは、東南アジアにプロパン法の新設備を建設することについてもさほど遠くない時期に結論を出すようにしたいと考えている。

━水島といえば、三菱化学との提携をどう考えていくかが注目されています。

 水島は、ただちにどこかとアライアンスしなければ自立していけないという脆弱な体質のコンビナートではない。それに、今年末にSMの年産33万tプラントが完成すると、水島のエチレンバランスはうんと良くなる。加えて、石油コンビナート高度統合運営技術組合の第2次計画に沿って三菱化学さんや新日本石油精製さんなどとともに未利用留分やユティリティなどの相互有効利用を進めていけば、さらに体質は強化できる。どうしても急いで提携話をまとめなければならないという状況にはない。

━最後に事業全体の海外展開についてもひとこと。

 SM、AN、PSといった汎用製品にとどまらず、エンジニアリング樹脂やPMMAなどの高機能製品もアジア地域で大きく伸ばしていきたい。現に、ポリアセタールやポリカーボネートなどが順調に育ちつつあり、さらにMMAの導光板などもアジア市場で大きく伸ばしていけると判断している。設備投資にも積極的に取り組んでいきたい。