ファイン事業の現状とあり方

住友精化 社長

広岡 良彦 氏

 Y.HIROOKA

 

 高吸水性ポリマーの市場開拓競争はいぜん激しいが、6月に住友精化の社長に就任した広岡氏は「国内需要は飽和状態でもうそれほど伸びない。そのため各社は今、輸出市場拡大に力を入れている」と分析。しかし同社はいち早くシンガポールに新工場を完成、稼動は軌道に乗っている。そのせいか「輸出品はシンガポールから出せばいい。その分国内で新商品開発などにもっと重点を置きたい」と戦略も明確なようだ。住友化学(専務)時代は、営業から経営企画と歩いてきた。キャリアに不足はない。

−国内の景気は少しずつ上向いてきたようです。会社の業績にも反映してきていますか。

 当社の事業内容から説明すると、まず大きく3つの分野から成り立っている。1つは医薬品とか農薬などの中間体、いわゆるファインケミカルと工業薬品の分野。2つ目は高吸水性ポリマーを中心とした機能樹脂関連分野。高吸水性ポリマーというのは、アクリル酸を原料とした吸水性のいい樹脂で、紙おむつなどに非常に多く使われている。3つ目がガス、プラント分野。ひと口にガスといっても、半導体から医療用、検査分析用など用途によっていろいろな種類がある。

 以上の3つが当社の事業の柱だが、お分かりのように、この3つは景気の変動とあまり関係がない。これまで不況で経済が低迷していたときもそれほど、業績は落ちなかったが、その代わり、回復してよくなったときも、あまり大きくは伸びない。安定しているといえばそれまでだが、会社の方針としては、景気動向に左右されず、業績が上がっていくようにしたいと考えているところだ。

−どうやって業績を拡大していこうと

 まさにそれをいま、検討しているところだ。3つの事業分野はそれぞれよく健闘してくれているが、事業間にはつながりがない。それがあれば、生産効率を高めるとか、選択と集中を図るといったことがやりやすいのだが、それが難しいため、事業部門ごとに工夫し取り組んでいくしかない。

−高吸水性ポリマー部門は順調に伸びていますね。

 そう言っていいと思う。いま国内に3万6,000トン、シンガポールに2万7,000トンの工場をもっている。稼働率も高い。だが、これからはどうだろう。世界的にメーカーの数は増え供給過剰の状態が続いている。競争が激しく値段も下がってきてメーカーとしては相当厳しい状況にあるといっていい。

 それに紙おむつというのは、日本では90%普及してしまっているから少子化の中で需要の拡大は見込めない。これから伸びるとすれば海外、それも中国とか東南アジアの各国だろう。そういうことで日本のメーカーはいま輸出に非常に力を入れている。当社は幸いシンガポールに新鋭工場が完成したし、稼動も順調だ。現地からの切り換え体制が整っているので無理に輸出を考えなくていい。当社はむしろ国内市場に目を向け、品質の改良とか新商品の開発にもっと力を入れていきたい。新しい成長分野はまだまだある。自社技術で開発してきた強みを生かし国内重視の戦略でのぞみたいと考えている。

−このまま競争激化が続くと、これからはどうなりますか。
 メーカーの数は国内だけで7、8社あるのではないか。すでに撤退したところも1社出ているが、それほど競争は激しい。海外にもニューカマーはどんどん出てきている。当社は生産能力からいうと国内では第3位だが原料を住友化学から買い、製品は大手のユニチャームに納めている。両者とは親密な関係にあるので、その点は強みだ。個人的見解として言うなら、吸水性ポリマーのメーカーの間にはいずれ、勝ち組と負け組が出てくる。海外には3社か4社、国内も3社ぐらいに集約されていくのではないか。そうなって、ようやく安定する。生き残っていくには何が大事かというと技術開発力、生産規模つまりサイズ、それと原料メーカーやユーザーとのつながりといったことになると思う。吸水性ポリマーはこれまで国内でよく伸びてきたし、これからも海外ではまだまだ伸びる余地がある。このように成長を続けている商品は化学品の中ではめずらしい。それだけにシンガポールも含めてしっかりやっていきたい。シンガポールはいずれ増設を考える時期がくると思う。
−他の事業部門も体制を強化していかれるのでは。

 うちの会社は設立が昭和19年と、比較的古い歴史をもっている。そして硫酸事業をよその会社に移管するなど、これまでにも構造改善をずいぶんやってきた。これからも事業の見直しをやり体質を強化したい。その一方で第2の高吸水性ポリマーを開発し、業績を伸ばしていくようにしたい。医薬品中間体のような精密化学品になると、医薬品メーカーなどユーザーとの関係が非常に大事だ。これまでに培ってきた有機合成技術を生かして小回りよく開発研究していきたい。最近は海外の大手製薬メーカーからも「こういうものはできないか」といった問い合わせや注文がくるようになった。それにはできるだけこたえていくようにしているが、利益性の高い商品の拡充を図っていくことはこれからも大事だ。

−今期の業績見通しはどうなっていますか。

 当社は輸出比率が20%とかなり高く、この円高の影響はどうしても避けられない。しかし、がんばって前回予想した売上高400億円、経常利14億円は何とか達成したい。年間配当6円も維持したいと思っている。