━実際の話し合いはどんなかたちで進められてきたのですか。 |
最初に私達が、操業の安全確保、リサイクルを含めた環境の保護と製品の安全確保に関してこれまで化学業界がどんな対策を講じてきてその結果どんな成果が得られたかを数字を使って説明し、そして市民の皆さんから質問していただいて詳しくお答えするというかたちを取ってきた。この中では、化学物質が有用性と合わせて何らかの有害性も持っていることも率直にお話するようにしてきた。さらに、化学業界がこれから実現していこうと考えている環境・安全対策の内容をお話し、そしてそれに対するご意見をどんどんお出しいただくようにしてきた。 |
━そうした一方では消費者団体との対話集会も何度か開催してきたのでしたね。 |
消費者の皆さんはわれわれ化学業界に取って重要な最終ユーザーであるだけにやはり対話が不可欠と考え、98年11月に講演会にパネルディスカッションを加える形式で第1回の会合を開いた。さいわい、参加者はほぼ会場いっぱいのおよそ280人に達し、大変に盛況であった。で、このとき、講師の一人を引き受けて下さった全国消費者団体連絡会の日和佐信子事務局長が、「次ぎからは、壇上と一般席とでやりとりするのではなく、化学業界の方と市民とが同じテーブルでいろいろディスカッションするようにしたらどうか」と提案して下さったので、2回目以降はわれわれと消費者の方々が交互に肩を並べてテーブルに着き、ざっくばらんに意見を述べ合うというかたちに改めている。99年4月、99年12月、そして昨年11月と計3回、この形式で対話を実施している。 |
━岩本さんは全ての会合に顔を出されたようですが、会合を重ねていく中で最も強く感じたのはどんな点ですか。 |
一般社会に情報をきちんと発信することがいかに大切であるかを改めて考えさせられた。多くの人々が企業に最も強く求めているのは、透明性であり、とりわけ環境・安全問題に関してはその思いが強い。それを無視していくと命取りになりかねないことが実際にいろんな人々からお話を聞いていく中ではっきり実感できた。 |
━市民運動家の中には、化学に対して強い偏見を持っていてディスカッションにならないケースもあるのではないですか。 |
時にはそんな事態に陥ることも有り得ると心配していたけれど、杞憂に終わった。こちらが丁寧に分かりやすく説明すれば、ほとんどの人々は真正面から対応して下さる。むろんそれは、化学業界がやるべきことをきちんとやっていることを明確に説明できてはじめて可能なことだ。つまり、業界全体が所期の成果をしっかり上げていることが前提と言える。さいわい、化学各社は環境・安全問題に関してもいろんな分野で着実に成果を上げてきている。けれど、そうした事実はほとんど一般社会には知られていない。一般市民の間に化学に対するマイナスイメージが強いのは、そうした点にわれわれ自身があまり意を用いなかったからとも言える。 |
━つまりは、一般社会とのコミュニケーションが不足していたということでしょうね。そうした中でJRCCが実際に対話集会やってみたら存外うまくいったということですか。 |
やはり対面して話し合うのが一番ということだ。化学各社の製造現場の皆さんも腰を引くことなく真剣に対応して下さった。だから、市民・住民の方々の多くも、率直な対応が好感できるとおっしゃって話に熱心に耳を傾けて下さるようになった。収穫は大きいと言ってよいと思う。 |
━逆に反省点はありませんか。 |
いくつかある。例えば、地域によっては、積極的に参加した市民から意見を引き出そうとする努力が不足しているところもある。これでは目的を十分に果たせないので、そういったところに対しては工夫が必要だ。呼び水としてパネルディスカッションを先にやることなども考えてよいかも知れない。
それともう一つは、説明がややもすると独りよがりの専門的なものになりがちな点も反省しなければならない。化学用語の中には一般市民が初めて耳にするものが多い。また、英語の頭文字を組み合わせた難解な固有名詞も少なくない。このため市民の中には、化学業界の人の話は分かりにくく、また資料を見てもなかなか理解できないとおっしゃる人が多い。この辺はよく考えてもっと分かりやすい説明の仕方、情報発信の仕方に改めていく必要がある。 |
━今後の活動についてはJRCCではどう考えていますか。 |
基本的な課題はやはり対話集会の場をもっと広げていくことにある。繰り返しになるが、世の中の多くの人は化学に関する情報不足が響いて化学に対して漠然とした不安感を抱きながら生活している。したがって、本来無視してよいようなほんのちょっとした出来事でも過剰反応と化学に対する拒否反応が生じることになりがちだ。それだけに、化学業界自らが対話の場を広げ、正確な情報を間断なく発信して少しでも多くの人に正しい知識を持ってもらうようにしていかなければならない。
どうしても化学は受け入れたくないというグループもいるが、それはほんの一握りにすぎない。多くの人々は、こちらの対応次第で化学を十分理解して下さると言ってよい。ついては、先にも述べたように、化学の有用性を強調するだけでなく化学物質があるていどの有害性を持っていることも率直にお話ししていくことが大切だ。むろん、その有害性が現実の人の健康に影響を及ぼすレベルのものかどうかといったことや、有害性を低減するために化学業界が何をしようとしているかといった点なども詳しく説明していく必要がある。こうした丁寧でかつ率直な姿勢による情報の提供こそが、多くの市民が求める透明性の確保ということなのではなかろうか。
今後も、多くの化学企業の方々と一体となり、誇りと自信を持ってより多くの市民の皆さんとフランクに対話を重ねていきたい。関係各位のご理解とご支援を切にお願いしたい。 |