ポリエステルフィルム事業の国際展開の現状と課題

 

三菱化学ポリエステルフィルム 会長兼CEO

金谷 浩介 氏

 K.KANAYA

 最近は、わが国の化学業界の間でも、世の中全体のグローバリゼーションの進展を睨んで事業の国際展開に積極的に取り組むところが増えてきた。得意とする技術を生かした高機能型の戦略製品に的を絞って実行に踏み切るケースが多く、いち早く狙い通りの成果を上げつつあるところも見られる。アジア・米・欧の3極全てをカバーできる事業体制を整備し直して98年10月に再スタートした「三菱化学ポリエステルフィルム」もその一つだ。そこで、同社の会長兼グループ4社のCEOを務める金谷浩介氏に同社ならびに同社グループ全体の現況と当面の基本戦略を聞いてみた。
━始めに、これまでの社の歩みと現在のグループ全体の特徴からご紹介いただきたい。

 昭和35年に旧三菱化成工業が長浜分室で「ダイアホイル」の商品名でポリエステルフィルムの生産を開始したのが第一歩だ。その後、三菱樹脂への移管を経て昭和50年に旧三菱化成工業と三菱樹脂とで共同出資会社「ダイアホイル」を設立して事業の拡充に本腰を入れて取り組み、日本国内における安定基盤を固めるのに成功した。
 続いて目標に掲げたのは事業の国際展開であり、時代の変化を睨んで様々な手を打ってきた。先ずは平成4年にヘキストとの間で合弁会社「ダイヤホイルヘキスト」を設立して日・米・欧の3極体制を確立、続いて平成8年にはインドネシアにも製造・販売拠点を設けて東南アジア地域のニーズにも機敏に対応していける体制を整えた。そして10年10月には、「ダイヤホイルヘキスト」のヘキスト保有株全てを三菱化学で買収して全額出資による新会社を再発足させた。これがいまの「三菱化学ポリエステルフィルム」である。
 したがって現在の当社は、日本国内でのビジネスの拡充に加えて、米国、ドイツ、インドネシアの3カ国にそれぞれ製造・販売拠点を持つグループ全体の効率的な事業展開を推進・統括していく役割も担っている。
 ちなみに、三菱化学ポリエステルフィルムの現在の資本金は30億円。設備能力は年産7万トンである。4社トータルでは18万トンの生産能力となる。グループ全体の特徴について申し上げれば、“4社それぞれの優れたマーケッティング能力を活用して世界の主要市場すべての様々なニーズを的確に吸収し、そしてグループ全体の技術力をフルに生かして各地のニーズに機敏に対応していく体制を構築している”点が大きな強みと言える。

━グループ4社間の連携はどうやって実現しているのですか。

 独自のシステムによって緊密に連携している。4社のトップが頻繁に顔を合わせ、世界全体のキメ細かな市場情報をきちんと交換し合うとともに、グループ全体および個別企業それぞれが目指すべき方向や当面の課題について活発に意見を交わすようにしている。こうしたことによって世界各地のニーズの変化をしっかり捉え、そして各社固有の持ち味をうまく生かすと同時にグループ全体の総合力も活用しながら効率的かつ機動的にニーズに適応しているところだ。

━事業拠点を分散している狙いはどういった点にあるのですか。

 ポリエステルフィルムの場合も、市場ニーズは地域によってかなり異なる。それぞれのニーズに的確に応えていくにはやはり現地法人によるきめの細かいマーケティングの展開と機敏かつ安定的な供給体制の構築が不可欠だ。このためわれわれは、先ずはアジア、米国、欧州の3極に拠点を設けるのが妥当と判断して実行に踏み切ったわけだ。現在は3極・4カ国の現地法人それぞれがそうした役割と機能を十分に果たしており、このためどの地域でも多くのユーザーから高い評価と信頼をいただいている。

━そうした体制の持つ強みはグループ全体の業績の改善に結びついてきていますか。

 どんな製品でも、国際市場で効率よく事業を展開して狙い通りの業績を上げていくには、世界各地のグループ会社がそれぞれの優れたマーケティング力や技術力などを相互にうまく活用し合っていくことが大切だ。さいわいわれわれのグループはその点もうまくいっている。これは、現体制で再スタートして1年たち、お互いの気心やものの考え方が十分理解でき、みんながどういう方向を目指すべきかについての思想が一致してきたことによるものと言ってよい。
 こうしたこともあって、業績はここにきて全体に好転してきた。赤字であったドイツ法人も黒字に転換できた。もっともこれにはやはり、最近の需要の回復が大きく寄与している。世界全体のポリエステルフィルムの需要は、1998年こそ前年の横並びにとどまったものの、99年は世界全体の景気の回復とともに特に後半に入ってから大きく伸び、年トータルでは前年を7%ていど上回った。
 一方、われわれグループも、これまで相当思い切った合理化策を実施し、着実にその成果を上げつつある。そうした時期に世界全体の需要が回復基調をたどってきたことは大きな意味を持つ。

━すると、いまの金谷さんには特に大きな悩みはないと……。

 あいにく、そうではない。目下の最大の悩みは製品値上げが遅れている点だ。われわれの場合も、原料価格の高騰分を製品価格に転嫁することが急務となっているが、なかなかうまく運ばない。特に日本国内のユーザーの説得が遅れている。一日も早く全ての需要家の同意が得られるようにもっていきたい。

━今後のポリエステルフィルムの需要についてはどう展望していますか。
 今年の総需要量は、世界全体で昨年を4%もしくは5%上回ると予想している。また、中長期で捉えても、電子・電気部品分野、包装材料分野、磁気媒体分野、印刷材料分野−−等々のそれぞれにおいて着実な成長を遂げていくと見ている。
━そうした中での金谷さんの当面の課題としては何が挙げられますか。

 先ずは適正価格の確立だ。しかし中長期観点に立っての基本課題は、グループ4社それぞれが持つ得意技とグループ全体の強みをうまく組み合わせて需要の伸びにきちんと対応していくようにすること、この一点に尽きる。つまりグローバル・ネットワークの一層の充実ということであり、ついては、現在の4社のトップによるグループ・ミーティングの中身をさらに濃いものにしていきたいと考えている。また、相互の人的交流も活発に行い、全員が国際ビジネスに参加しているとの意識を十分に持ってしごとをしていくようにしたい。要はグループ全体できちんと収益を確保していくことであり、そのためには4カ国の経営トップと社員が様々な文化や価値観を等しく共有していくよいに持っていくことも大切と考えている。リーダは何も日本人でなくてもよいと思う。

━数年後の企業イメージを簡単に表現するとどうなりますか。

 目標は、ポリエステルフィルム事業における世界のリーディングカンパニーと称される存在になることだ。そして、世界各地の需要家や関係者全てからすばらしい企業だと言われ、みんなから暖かくフォローされる企業グループになるのが理想だ。2003年中には実現したい。