光ディスク事業をどう立ち直らせたか

 

三菱化学メディア社長

小林 善光 氏

 すべてが目まぐるしく変化する時代。化学品ビジネスの世界も同様で、ついこの間まで華やかなフットライトを浴びていた製品が、あっという間に姿を消す一方、採算確保のめどが立たず撤廃必至と見られていた事業部門が、いつの間にか高成長部門に生まれ変わるケースもいくつか見られるようになってきている。三菱化学の光ディスク事業部門“復活”は、典型的な後者の例といえるだろう。2年余り前までの同部門は、極端な業績不振に苦しみ解散不可避の状況にあった。ところが現在は、製品の多くが世界トップシェアを確保、三菱化学グループの中でも屈指の好業績を上げる企業へと“変身”している。どうしてこのような急転換が実現できたのか、小林喜光社長に聞いてみた。

 

--この数年、光ディスクの分野では、採算を確保できずに撤退する企業が相次ぎました。三菱化学もギブアップは時間の問題と言われた時期がありました。

 これまでに撤退した企業はおよそ14社(うち化学系10社)を数える。この分野に参入した企業のほとんどが身を引いたことになる。安価な人件費を武器にCD-Rの量産・拡販を開始した台湾やインドなどの新興企業と、コスト面で太刀打ちできなくなったことが大きい。
 三菱化学も巨額の赤字を計上し、このため01年初頭には経営会議を構成する方々の多くが撤退やむなしとの判断に傾き、私たち担当者にもその意向が内々に伝えられた。けれど私たちは光ディスクの成長を確信していたので、あと1年だけ待ってほしいとお願いし、新たな数値目標を設定して新体制でその目標のクリアに必死に取り組んだ。その結果、幸い計画を上回る業績を上げることができ、今日に至っている。その後も業績は順調だ。

--再建に当たってはどんな手を打ってきたのですか。

 先ずは、経営効率を高めるために人事、研究開発、製造、販売など全ての活動のマネージメントを一元化した。これからの時代は、経営のスピードと透明性が不可欠と判断したからだ。次いで、製造部門の思い切ったアウトソーシングに踏み切った。それまでは、水島のほか米国、アイルランド、メキシコ、シンガポールに製造拠点を持っていたが、このうち米国、アイルランド、メキシコの工場を売却して製造のほとんどをコストの安い台湾とインドの企業に委託した。
 残る水島も、当社特有の高度な技術力によるスタンパー(鋳型)と、特異なMOの生産に限定した。そしてシンガポールの工場は、主として新製品の試作拠点として活用していくことにした。
 こうした製造面の抜本的な改革によって得られたパラダイムシフトおよび合理化効果は大変に大きく、これによって厳しい生存競争を勝ち抜いていける体制が整った。マネージメントの一元化によって、調達・販売・マーケティングの一元的管理を東京でできるようになった点も特記に値する。

--台湾やインドの企業への技術移転はスムースに運んだのですか。

 高品質の光ディスクの製造には、高精密スタンパーと高度な技術による染料が不可欠だ。このため、製造委託に当たっては、こうした部材も全て提供した。これによってわれわれの狙い通りの機能を持つ光ディスクが、どこでも遅滞なく円滑に製造していけるようにした。品質保証の面でも人を派遣して的確に対応している。

--製造面以外の改革で力を入れてきたことは。

 一つは研究開発活動の加速。そしてもう一つはマーケティング力の強化だ。日に日に多様化かつ高度化するニーズに的確に対応できる新製品をタイムリーに開発・上市していくには、これら2点の課題の同時クリアが不可欠と判断したからだ。これも全社員の努力で狙い通りにことが運んでいる。研究開発の加速に当たっては、スタンパーと色素の技術力の一層のレベルアップも重点課題に掲げてきた。研究開発活動のスピードアップのため、これまで三菱化学の横浜研究所で活動していた部隊を03年4月に筑波に移して三菱化学メディアに組み入れた。得られた成果は、シンガポール工場の製品試作ラインで実用性をきちんと確認した上で生産委託先に提供するようにしている。シンガポール工場が果たしている役割は極めて大きい。
 現在、当社が全世界のユーザーから高い評価をいただけるようになったのは、先に申し上げた生産体制の改善によってコストの合理化を果たしただけでなく、技術の全ての面について一段と磨きをかけ市場のニーズを先取りした新製品を次々に世界に先駆けて開発して、タイムツーマーケットで上市してきたからにほかならないと自負している。

--光ディスクの需要は、まだこれからも大きく伸びると期待できますか。

 いま世界全体でおよそ70億枚のCD-Rが使用されているが、これらに加えて今後はデジタル画像の時代に入るのに伴い、DVD-RやDVD+RW等の高機能品種が急成長していく見通しにある。これらの消費量は、03年で早くも4〜5億枚に達するといわれている。また、最近当社が開発した次世代型光ディスクのブルーレイディスクや32倍速対応型のCD−RWといった新品種もいち早く市場で高い評価を受けている。これらの品種だけでも少なくとも向こう5年は高成長をキープしていけると判断している。ただしその先は、フラッシュメモリーなど新しいメデイアの時代になるかも知れないので、新たな技術対応が必要になろう。

--今後も生存競争を勝ち抜いていく自信は十分と。

 当社の大きな強みは、技術力からマーケティング力にいたるまでの総合力で世界のコンペティターを大きくリードしている点にある。いわゆるコンポーネントの力は世界ナンバーワンと言ってよい。MITSUBISHI/Verbatimのブランド力も強力だ。こうした強みをフルに活かして、新しいニーズに機敏に対応していけば自ずと結果はついてくると思う。ついては、引き続き「スピードと透明性」をスローガンにエレクトロニクス企業からコンシューマーにいたるまで多くの企業と密接に連携を取りながら新品種をどんどん開発していきたい。

--社員に対して今、特に強く期待していること、言いたいことは。

 先ずは、時代が強く求めている光メディア文化の重要な担い手としての自覚と誇りを持って欲しい。そして、現在自分がどんな使命を担っているか、またその使命をきちんと果たしているのかどうか、たとえばニーズの探索などをしっかりできているのかどうかなどを自問自答することが大切と思う。個人が方向を見失うと社全体の存続がたちまち危うくなることを肝に銘じてもらいたい。私自身も絶えず世界の市場を回ってニーズを的確かつ迅速に吸収するようにしていきたい。グローバルに展開するMKM/Verbatimグループ内のノーレッジと事業ベクトルの共有が重要な課題と認識している。