『グローバル化するシリカ事業の戦略と展開』

 

トクヤマ常務取締役

楠本 紘士 氏

 K.KUSUMOTO

━湿式と乾式では品質や用途が違うのですか

 当社で生産している合成シリカは、製造方法によって湿式シリカと乾式シリカに大きく二分できる。
 湿式は珪砂を原料とする珪酸ソーダを原料として、その水溶液を中和してシリカを析出し、ろ過・乾燥する方法(液相法)。外観上はふわふわとした軽い白色の粉末で、用途は合成ゴムの補強充填剤、農薬等液体の粉末化と固結防止、軽量紙の印刷インクの裏抜け防止、塗料、インクの増粘・たれ止め、断熱材、研磨剤などがある。
 一方、乾式は精製された四塩化珪素を高温の炎の中で反応させる方法(気相法)でシリカを生成する。湿式に比べて純度が高く粒子が微細で水分が極めて低い。シリコーンゴムの充填剤、樹脂の増粘剤、補強剤、あるいは粉体の流動化剤、セラミックスの原料として広く用いられる。

━企業間の競争も激しいのですか。

 それは厳しい。世界的にみてメーカーの数はそう多くはないが、大手の化学会社ばかりだ。挙げれば湿式はPPG(アメリカ)、ローディア(フランス)、デグッサ(ドイツ)。乾式はデグッサ、キヤ ボット(アメリカ)、ワッカー(ドイツ)。生産能力では比較にならない。しかもコンペティターはいずれも市場拡大に意欲的だ。アジアは残された最後の市場とばかり激戦区になっている。当社は、これからも無機粉体技術と立地を生かしてユーザーに供給をしていきたい。湿式・乾式を併せ持つことも強みだと思っている。

━今度タイの工場で粒状品の能力を増強しました。競争に備えるためですか。
 その通りだ。タイには1988年、ポーンパット・ケミカルズ(PPC)という子会社を設立し、湿式シリカ(ホワイトカーボン)を生産している。粒状品(グラニュールタイ プ)をこの6月末には年産6,000トンから12,000トンに倍増する工事が終った。まもなく本格操業に入る。グラニュールタイプはふわふわ感を押さえた取り扱いやすいタイプでありアジア市場で伸びている。PPCはアジア全体をターゲットにしており一部自動車タイヤ用等は日本へ持ってきている。これからもアジア市場のナンバーワンを目指したい。
━国際競争を展開していく中でどんな点に難しさがありますか。
 価格競争が激しい。それだけではない。買手優位の世界だし情報化時代で情報の伝播が早いから製品の優劣がユーザーつながりで広まる。昨今はユーザー業界の再編統合が進みユーザー数が減少するという事態もみられる。技術力、品質、価格、販売力とどの面でもいつも真剣勝負している。
 しかし用途が特殊だし、川下のすそ野が非常に広いから研究開発も重要で、ときにはユーザーと一体になって使い方を考え改良研究し提案していかないといけない。ユーザーやテーマは世界中に散らばっている。ある意味ではこれまでのトクヤマとは全然違った仕事のやり方をしていかないといけないと思っている。それだけやりがいのある事業だといえる。