石油業界の現状と行政課題


通産省資源エネルギー行 石油部流通課長

(兼任)同省産業政策局産業資金課長

<松井 哲夫 氏

 T.MATSUI

 

 石油の大手元売り会社が相次いでガソリンの卸売り価格引き上げを打ち出した。国際原油価格の高騰から、コスト上昇分を転嫁せざるを得なくなったという。特石法廃止による輸入自由化など規制緩和が進む中で、元売り各社は事業再編、合理化に懸命だが、当局はどうみているのだろうか。

−石油流通業界も課題が多いようです。
< 規制緩和からかなりの年月が経ったが、依然としてガソリンなど石油製品の販売業界にある種の混乱が生じているのは確かだ。平成8年3月に特石法の廃止により、石油製品の輸入が自由化され、また、揮発油販売業法の全面改正によって、サービスステーション(SS)への参入も自由化された。この結果、大手流通業者のスタンドへの参入が進んだが、規制緩和の前後から価格面を中心に著しい販売競争がみられるようになり、ガソリン価格は大幅に低下した。
 ガソリンの全国平均小売価格は平成6年1月に1リットル当たり122円だったものが、8年4月には107円、10年1月には98円、さらに11年7月には93円と5年半の間に約30円も下がっている。11年5月には90円を記録している。ガソリン税の53・8円を差し引くとどうなるか、仮に122円として、税引き後の価格は68円、それが90円に下がれば、中味の価格は36円ということになる。元売り会社や販売会社にとっては大変な売上減となる。販売量をかけて単純に計算しても年間1兆円を大幅に上回る減収であり、その分消費者に還元されているわけだ。それぞれ相当な合理化は行っているが、追いついていないのが現状だ。
−ガソリンスタンドの数も減っています。
 そう。SSはピーク時の平成6年度末には全国に6万421軒あった。それが8年度末5万9615軒、9年度末5万8263軒、最近はさらに減って5万6000軒強となっている。約4000軒減ったわけだ。
−異業種、外資系企業の参入も話題になりました。
 ダイエーとかジャスコといったスーパー店が進出しているし、外資ではBP(ブリティッシュ・ペトロリアム)が出店して話題になった。
−元売り、精製各社の業績に改善の見込みはないと・・・。
 元売り、精製各社の10年度の決算は全社合計で経常赤字になっている。オイルショック直後の昭和56年度決算以来17年ぶりのことだ。消費者の側からみれば価格低下のメリットはあるにしても、元売りや精製会社にすれば大変なことだ。
−元売り各社はガソリン値上げを打ち出しているようです。
 3月以降原油価格が上がっている。OPECが減産を強化したこともあって、2月頃までバレル10ドル前後だったドバイ原油は、6月には16ドル、最近は18ドルになっている。円ベースでみるとリッター当たり5〜6円あるいはそれ以上のコストアップとなるわけで、いくら合理化やコストダウンを図ってもとても吸収できる規模のものではない。需要家の理解を得ながら適切な転嫁が図られていくということは必要ではないか。
−行政は、業界の合理化、経営努力に対して、どんな支援策をとっているのですか。
 規制緩和の下では自由競争が前提であり、まず各企業は自らの責任によって消費者のニーズをつかみながら自らの発展の方向を選択し、合理化努力していくことが大切だ。私たちとしては、そういった合理化がしやすい環境を整備していくところに施策の重点を置く。1つには事業転換、多角化、高度化を図っていこうという企業には利子補給などの支援策を講じる。閉鎖するSSには、地下タンク撤去費用の補助といった支援をする。それともう1つは、お互いに公正な競争ができるように土俵づくりをしていく。ガソリンとか灯油といった石油製品は、製品差別化が難しいので、末端ではどうしても値段での競争に走り勝ちになる。また、元売りについては、規模の大きな強いSSとそうでないところで差別しているのではないか、という指摘もある。私たちは適正な競争が行われるよう、流通の透明化、公正化を図るような基盤整備を進めていきたい。公正取引委員会に対しても、独禁法に違反するような不当廉売や差別取扱いに対し厳しく取り組むよう申入れたり、職員を派遣し協力したり密接に連携をとっている。
−わが国の石油流通業界はどうあってほしいと。
 流通に限らず、石油産業全体が強靭で、足腰のつよい産業であることが、安定供給の上からも最も望ましい。そのためには合理化、効率化をいままで以上にやっていただく必要があるが、厳しい内外環境の中で1社の合理化努力だけでは対応できないということもあるだろう。「日石三菱」の誕生に見られるように企業の枠を超えて、油槽所とか物流段階での合理化や精製段階の効率化などもせざるを得ないようになっていくと思う。私たちも税制面、雇用面など側面から積極的に支援していく考えだ。来年度予算ではこれまでの枠を超えた、さらに合理化しやすい環境づくりのための施策を考えて、そのための予算を要求していこうと考えている。
 
(注:松井氏は8月13日付の異動で併任が解かれ、現在は産業政策局産業資金課長)