ポリエチレン事業部の中期経営計画について

 

旭化成工業

ポリエチレン事業部長

西口雄三 氏

Y.NISHIGUCHI

 最近のわが国ポリオレフィン企業の間には、今年第4・四半期以降急速に悪化する見通しにある国際環境を無事切り抜けていくため、これまで以上に厳しい内容の中期計画を作成して実行に踏み切るところが多い。旭化成工業もその一つだ。そこで西口雄三・ポリエチレン事業部長にポリエチレン事業部の中計のポイントについて聞いてみた。

━最初に、ポリエチレン事業部の中期経営計画「SS—2004」のアウトラインからご紹介下さい。

 始めに、「SS—2004」の呼称の意味するところから紹介させていただきます。二つのSのうち、一つは当社のポリエチレンの総称であるサンテックのSであり、もう一つはサバイバルのSなのです。一方の2004という数字は目標の達成年を表しています。
 さて本題ですが、私達の中計は三つのテーマによって構成されています。その一つは、コスト競争力の強化です。具体的な目標は、2004年までの5年間に樹脂1キログラム当たり10円のコストダウンを実現することにあります。当社のポリエチレンの総設備能力は年約30万トンなので、合理化目標の総額はおよそ30億円ということになります。
 いうまでもなく、当社もこれまでの間に厳しい合理化努力によってかなりコストダウンを実現してきました。やるべきことはあらかた実行してきたと言えます。ですから、それにさらに30億円上乗せするのは大変なことなのです。しかし、この目標を達成しないと厳しい国際生存競争から完全に取り残されてしまいますので、なんとしてもやりとげるほかありません。

━重要課題の第二点は何ですか。

 高付加価値品種を大きく育てることです。現在私達が企業化しているポリエチレンの種類は、HDPE(高密度ポリエチレン)とLDPE(低密度ポリエチレン)に大別できますが、このうちのHDPEの中では中空成形用やパイプ用等の品種が、またLDPEではラミネート用グレードなどが高付加価値品種の代表に挙げられます。いずれも将来が大いに期待できる品種です。さいわい当社には有力候補が豊富ですので、こうした非汎用品種の占めるウエートを十分高めていくことでこれからの厳しい国際競争をきちんと勝ち抜いていきたいと考えています。
またそれに合わせて、超高分子量ポリエチレン「サンファインUH」や燒結成形用粉末グレード「サンファインSH」、さらには親水性多孔質プラスチック「サンファインAQ」、粉末ポリエチレン「サンテック—PAK」、高性能メタロセンポリエチレン「クレオレックス」--など当社独特の特殊製品の育成にも一層力を入れていく決意です。これらの製品はいずれもニッチ・マーケットを切り開いていける材料なので、これからの市場にうまくフィットしていくと確信しています。

━メタロセンポリエチレンは上市してまだ日が浅い製品ですが、どういった点がセールスポイントと言えるのですか。

 「クレオレックス」は、当社独自のスラリー重合技術とダウケミカルのインサイト触媒技術を組み合わせた新タイプのポリエチレンで、既存のポリエチレンにない多くの特性を備えています。中でも、耐衝撃性、耐環境応力性(ESCR)、熱安定性などが大きな強みです。こうした特徴を生かしてパイプやブローの分野に新しい領域を切り開いていきたい。

— HDPEとLDPEの総出荷量のうち、高付加価値品種の占める比率をどれくらいまで引き上げたいとお考えですか。

 現在の構成比率はおおむね20%というところです。これを40%にしたい。2004年末を最終目標期限にしていきます。

━重要テーマのもう一点は何でしょうか。

 前述の二点に劣らず重要なのはやはり設備面のてこ入れによる競争力の強化です。現在当社は、HDPEプラント3系列とLDPE設備2系列を水島に保有していますが、最近の海外の新プラントに比べるといずれも規模が小さい。したがって、コスト競争力の強化には、この面でも思い切った対策の実行がどうしても必要となるのです。
 一つの方法としては、HDPEの3系列を若干手直ししてより効率的な使い方ができるようにすることです。例えば、一つの系列はフィルム品種の専用にし、そしてもう一つはブロー用品種の専用に活用、さらにもう1系列では特殊品種を作り分けるといったことができるように持っていくことなどを考えているところです。

━LDPEの設備も含めてのスクラップ・アンド・ビルドの計画はありませんか。

 当然それも考えています。他社との提携による実現も含めて年内には結論を出したい。これからは、少なくとも1系列年産10万トン、できたら15万トンの規模を目指すべき時代ですからね。

━ 他のポリエチレン企業とのアライアンスには、お互いの強みを生かし合うことが大切ですが、旭化成工業のポリエチレン事業の強みとしてはどんな点が挙げられますか。

 大まかに言って3点に集約できると思います。第一点は触媒技術レベルが高いこと、第二点は生産・技術開発・物流の全ての部門が水島に集中しているため事業の効率的な展開が図れること、そして第三点としては加工メーカーにせよエンドユーザーにせよ顧客が優良企業で占められていることが挙げられます。これらは大いに誇りにできる点です。

━最後に、中長期展望に立っての化学企業の在るべき姿についてもお考えをご披露下さい。

 単独で生きていくか、どこかとアライアンスするかは措くとして、汎用製品とスペシャリティー製品とが最適なかたちにインテグレートされた化学企業というのが理想の姿と言えるのではないでしょうか。当社もぜひその一員となりたいものです。