「ワールドソリューションカンパニー」を目指す

 

旭化成ライフ&リビング社長

能村 義廣 氏

 旭化成が昨年10月1日に再編・独立させた7事業会社の一つ「旭化成ライフ&リビング」の新たな取組みに、国内外の注目が集まっている。生活関連商品の開発・上市だけでなく、顧客の要望があれば、問題解決のため、専用システムや機械、さらに使用ソフトやサービスなど、全てをパッケージにして紹介していくという“ソリューション提案型”の企業行動が共感を呼んでいるのだ。「常に顧客を見つめ、顧客の満足感を高めていくよう努力していくのが原点」と能村社長。「目指すはワールドソリューションカンパニー」という。国内各地の大型店舗や小学校、さらには中国のスーパーへと積極的に“営業現場”に足を運び商品PRを行っているそうだ。

━「旭化成ライフ&リビング」とはどういう会社なのか、特徴から紹介して下さい。

 現在もっている製品群を大別すると、消費材、包装材、緩衝材、容器の4種類に分類できる。商品の種類は、食品包装用ラップ「サランラップ」、ジッパー付き保存袋「ジップロック」、ほかに食品密閉容器、クッキングシート、塩化ビニリデンフィルム、塩化ビニリデン系合成繊維、緩衝材など、極めて多彩だ。いずれも生活関連商品で、その点は以前の「旭化成生活製品カンパニー」時代と同じと言える。
 
 ただ、これらの製品の育成の仕方、事業の進め方は大きく改善しつつある。これまでは、樹脂の持つ特性を生かせる商品の開発によって事業の拡大を図ってきた。現在は、先ず顧客の皆さんが抱えている様々な問題をきちんと解決することを最優先テーマに掲げ、それを実現した上で顧客の皆さんと共に優れた商品を市場に広げていくことをビジネス展開の基本に置いている。しかもこれをワールドワイドに実行していく。この点が現在の「旭化成ライフ&リビング」の大きな特徴と言ってよい。つまり“ワールドソリューションカンパニー”が私達の目指す企業像で、その実現にいま全社員必死に挑戦しているところだ。

━需要家の抱えている問題の解決を、どんなかたちで実現していくのですか。

 需要家つまり、流通業界の皆さんや一般消費者の方々の声を直接お聞きし、その結果をきちんと踏まえて、真にニーズにマッチした商品をタイムリーに提供していく。それに必要な関連システムや機械、さらに使用ソフトやサービスなどをパッケージにして顧客の皆さんに紹介あるいは提案していくという方法を取っている。顧客の皆さんが抱えている問題を解決するとともに、消費者のニーズにもより的確に対応していくことができるようになりつつある。

 こうした手法は、食肉包装材で世界の市場の80%を占めている米・シールドエア社がいち早く採用して大きな成果を上げている。3年前にシールドエア社を訪問してこの話を聞いて以来、いつか当社でも採用したいと考えていた。いま実行に踏み切ることができた。

━そのソルーションシステムによって生れたものにどんなものが。

 例えばコーヒーの大手チェーン店で人気のPP製透明カップとか、NTTで採用された生分解性フィルム、焦げ付きの心配のないアルミホイル、有名キャラクター印刷の入浴剤や石鹸、ジッパー付き食品保存袋、大手コンビニに納入中の新タイプの食品包装材容器、米国で特に人気の高いPVDCによる人形の毛髪など、枚挙にいとまがない。

 中国の大手ソーセージメーカーで採用されているイージーオープンタイプのPVDCフィルムもその一つだ。旧カンパニーの時代に開発したものだが、その後に国内の大手食肉メーカーと有力機械メーカーの協力を得て開発した高速充填結束装置を顧客に紹介したのが決め手となって、いま大きく伸びている。中国のソーセージメーカーへの今年の納入量は2年前の2倍となる見通しだ。

━既存商品については今後どんなことを考えていくと。

 さいわい、「サランラップ」をはじめ多くの商品が引き続き順調に伸びている。しかし手を拱いていると必ず後発の追い上げにあい窮地に陥る。それを防ぐには、常に市場に足を運んで流通分野や一般消費者の生の声を聞くことが大切だ。私は、ときどき国内だけでなく中国のスーパーなども訪問して、ちょんまげ姿やマジシャンの扮装をして店頭に立ち「サランラップ」などのPRやデモンストレーションを演じたりしているが、これも常に市場と密接にかかわりを持っていたいと考えているからだ。

━中国で「サランラップ」の需要は伸びていますか。

 中国で販売を始めて2年になるが、さいわい品質が評価されて順調に伸びている。後発なので現在の市場占有率は20%ていどだが、3年後にはトップに立てると思う。中国以外にも台湾、香港、タイ、韓国、マレーシア、シンガポールなどに市場基盤を構築中だ。来年以降はベトナム、フィリピン、インドネシアなどにも進出したい。

━旭化成ライヒ&リビングの今期の業績見通しと経営課題を。

 この3月期の売上高は前年の10%増の630億円、営業利益は前年より20%弱増えて55億円強になる見込みだ。だが、これで満足してはおれない。グローバルな事業の拡充にはかなりの資金も必要になるからだ。したがって、当面の課題は収益力のもう一段の強化ということになる。3年後には売上げ高850億円、税前利益率10%を確保したいと考えている。

 ついては、事業展開の効率向上にも大いに知恵を絞っていく必要がある。昨年12月に発表した大日本インキ化学工業とのOPS事業の一体化もそうした考えに基づいた施策の一つであり、早急に統合効果を上げていきたい。今後もこの種のアライアンスには積極的に取り組んでいくようにしたい。

 それともう一つの重要課題は技術力の一層の強化だ。“全ての商品がナンバーワンあるいはオンリーワンの技術によって支えられている企業”というのが私達の目指す企業像だ。“ワールドソリューションカンパニー”の円滑な実現のためにもぜひこの課題を着実にクリアしていきたい。