『グループ全体の業績向上に全力を』

 

東ソー常務取締役経営管理室長

太田垣 啓一 氏

 K.OOTAGAKI

 現在の化学各社は、年初に掲げた業績目標のクリアにこれまでにない苦闘を続けている。原油やナフサの急騰に象徴されるように世界全体の政治や経済が突如大きな変化を遂げる時代となっている点が悩みを深くしている。こうした中で動向が特に注目される企業組織の一つは、各社の予算管理部門だ。同部門の場合、激しい環境の変化の中で対応を誤ると社全体の業績の大幅な低下を招くことになるだけにこれまで以上に的確な情勢判断と機敏な行動が求められており、その責務は一層重要となっている。大手総合化学企業の一つの東ソ−の「経営管理室」もそうした重責を負う組織だ。そこで、太田垣啓一・同社常務取締役経営管理室長に当面の抱負を聞いてみた。

━始めに、経営管理室の役割をざっとご紹介下さい。

全ての部門の予算とその実行状況をチェックし、東ソーグループ全体が効率よく当初の目標通りの業績を上げていくように持っていくこと−−、これが基本的な使命と言える。

━社長室の役割とはどう違うのですか。

 社長室は、当社ならびに当社グループ全体の中長期の経営戦略を企画・立案してその実現を図る部門だ。経営管理室は、その社長室が取りまとめた経営戦略の単年度ベースの計画の実現を的確に後押ししていくための組織であり、したがって、社長室とで構成する車の両輪の一つと言うことができる。

━他の企業の同様の役割を持つ組織と比べて何か違いがありますか。

 情報システム機能を経営管理室に取り込んだので、その機能をフルに活用して様々なデータをスピーディーかつ正確に収集・分析できるようになっている。この点は特徴の一つに挙げてよいと思う。

━逆に言えば、化学に対する一般社会の理解は国際的にもまだまだ十分ではないということになりますか。

 ご指摘の通りだ。この問題には日本だけでなく欧米の化学業界も同じように頭を痛めている。
 周知のように、米国化学品製造者協会は今年になって団体名をこれまでのケミカル・マニファクチャラ−ズ・アソシエ−ション(CMA)からアメリカン・ケミストリ−・カウンシル(ACC)に改めた。これは、化学工業が産業・経済の発展や環境保全等に大きく貢献しているにも係わらずその実態が一般市民に知られないままきていて、時として誤解による批判を受けることもある点を重視し、化学の持つイメ−ジを変えたいと考えたことによるものと聞いている。つまり、ケミストリ−が産業や人の暮らしに不可欠なものであり、エレクトロニクスやバイオテクノロジ−といった先端基盤技術と同様に世の中に大きく役立つものであることを多くの人々に十分認識してもらえるようにするのが目的というわけで、その背景や狙いは私も十分理解できる。
 周囲の理解を得るには、化学業界自身がもっと積極的に社会や市民と対話することが大切であり、このため日化協も広報活動の充実には特に力を入れていきたいと考えている。

━東ソーの企業体質はこの数年でかなり強化されたと言われていますね。

 社員全員の踏ん張りで経費の削減などコストの合理化がかなり進み、体質は着実に改善できてきている。しかし、関連会社を含めたグループ全体で捉えるとまだクリアすべき課題が多いと言わざるを得ない。例えば、総務や経理等の間接管理部門の仕事にはお互いに重複しているものが少なくない。そのへんを思い切って改善すれば合理化効果がかなり上げられるはずだ。
 こうした点についてきちんと具体案をまとめて提案することも経営管理室の当面のしごとの一つと考えている。ついては、東ソー本体の総務の人間なり経理の人間なりも、グループ全体の総務なり経理なりを担当していくのだという意識をはっきり持って仕事をするようにしてほしい。現にその点を関係者に強く訴えているところだ。
 間接管理部門は、できるだけ早い時期に一体化すべきだと思う。すでに分析センターや情報システムなどは集約・一体化のうえ分社化してきちんと成果を上げつつある。

━一方、主力事業の充実・強化の進展状況についてもお聞きしたい。この数年はビニルチェーンの拡充に特に力を入れてきましたが、当初掲げたテーマは全てクリアできたのですか。また、他の主要ビジネスについても思った通りに拡充できていますか。

 ビニルチェーンの充実強化について言えば、打つべき手は全て打ち終えたと言える。電解と石油化学の二つの事業を合わせ持っているのが当社の強みだが、ともにスケールメリットをさらに追求していける体制にしたので競争力はかなり強化できたと言ってよい。大洋塩ビをすっきりした体制に再編できた点も今後の業績向上に大きく寄与していく思う。
 しかし、もう一つの大きな経営課題であるファイン・スペシャリティ部門の育成に関しては十分な成果が上がっているとは言いがたい。もっとも、無機製品では、スパッタリングターゲット、合成石英、電解二酸化マンガン、ファインセラミックス−−などのように世界トップ、あるいはベストスリーの地位を確保できているものが少なくない。科学計測のビジネスも大きく育ってきた。これらの製品部門が十分な業績を上げていくように、経営管理室としても効果的な支援策を展開していくようにしたい。
 問題は、有機のファイン・スペシャリティ事業をどうやって育成していくかだ。今のところ、エチレンアミン以外に世界に誇れる製品があまりない。したがって当面は、エチレンアミンの誘導体の一つとであるウレタン発泡触媒や、水処理剤あるいは金属洗浄剤などの育成と品揃えに力を入れていくべきではないかと考えているところだ。

━その場合、どういった性格のものを狙っていきますか。

 何でもかでも手がけるという生きかたは取るべきでない。東ソーアクゾなど関連企業の持つハロゲン化技術や金属反応技術なども生かした東ソーグループ特有の機能性誘導品をタ−ゲットにしていくのが妥当と考える。

━ポリマー事業はどう育成していきますか。先の機構改革でポリエチレンと機能樹脂の部門を一体化しましたね。その狙いはどんなところにあるのですか。

 四日市事業所や南陽事業所では早くからポリエチレン、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、クロロプレンの各部門の製造部門が一体となって生産効率の向上を図っている。ついては、研究開発や販売、物流の各部門も同様に合理的な体制を組み変えるべきと考えたことが今回の新組織の編成となったわけだ。これによって、これまでそれぞれが気がつかないままきていた市場動向や見逃してきた技術情報などをお互いに発見し合うこともできるようになり、大きな相乗成果が上げられると期待している。また、そうなるように経営管理室もきちんとサポートしていきたい。

━終わりに、太田垣さんが実現したいと考えている当面の最重要課題も披露して下さい。

 先ほど申し上げた新たな情報システムの持つ機能をフルに活かして東ソーならびにグループ会社の全てが十分な業績を上げていけるように知恵を絞っていくこと、この一言に尽きる。ついては、連単倍率の向上を念頭に置いていくことが大切と考えている。