eコマース時代の商社の役割と機能

 

三菱商事

経営企画担当マネージャー


末常 裕治 氏

Y.SUETSUNE

 "IT革命"を背景に、インターネットを使った商品取引きが活発化しようとしている。化学業界でもすでにいくつかの企業が海外のeコマースに出資参加、国際的にマーケットが拡がるなど期待は大きいようだ。
だが、大手商社はこうした動きをどう見ているのか。三菱商事はアメリカのeコマース2社に参画する一方、自社でもポリエステルチップの電子市場を開設するなど、取り組みに積極的だ。
 「商社活動もいままでと同じことをやっていたのでは生き残れなくなる」「しかし、商社がもっている多くの機能はこれからも必要だし、生き続けるだろう」と末常さん。社内ではeコマースを取り込もうと戦略的に考え、経営陣に意見具申しているという。

━eコマースへの関心、世界的にも高いですね。

 この半年、1年、会社が続々誕生している。化学関係だけでもすでに30社位あるのではないか。まだ増えると思う。
 売りと買いをきちんとマッチングさせるという会社ももちろんあるが、中にはただブレティンボード(掲示板)を置いているだけといったところもあるようだ。業容もまちまちで、広く化学品全般を扱うというオールマイティ型から、プラスチックだけ、農薬だけといったように範囲をしぼり、特化しているところもある。すでに韓国でも立ち上げているが、これからさらに会社は増えるだろう。しかし実態はまだよくわからない。ピンからキリまで、まさに乱立状態だ。

━三菱商事はどういう取り組み方をしていると。

 当社はまず「ケムコネクト」に参加している。あらゆる化学品を扱っている会社で規模も世界のトップだ。それともう1つ、プラスチックに的を絞りプラスチックネットを運営している「コマーツ」にも出資参加した。1つはオールラウンド型、もう1つは特化型ということになる。

━ケムコネクトやコマーツに商社として出資する以上、それなりに役割もあるのでは。

 ケムコネクトは国際的にマーケットを拡大し、新しいネット経済に対応していける、総合力のあるパートナーを求めている。当社への期待も大きいと思う。ほかにもBASF、BPアモコ、ダウケミカルといった大手メーカーも出資しており、当社とともにチャーターメンバー(経営諮問委員会)になっている。私たちも物流、金融などできるかぎり協力したいと思っている。
 それと、当社はポリエステルチップの電子市場「ポリエステルチップ・ドット・コム」を自社で開設し、1月から営業開始した。アメリカの2社に参加しつつ、一方では自分でWebの運営もやっていく。アメリカで今何が起こっているかをいち早くつかみ、自分のところに生かしていきたい。今アメリカで起こっていることと同じ波は半年後、1年後には必ず日本の周辺にもやってくる可能性がある。きっちり把握しておきたい。

━ポリエステル・チップの電子市場開設、運営は順調ですか。

 まだスタートしたばかりなので何ともいえないが、うまくいくと思う。繊維、フィルム、ボトルなどポリエステル製品は世界で年間2,800万トン生産されており、年間2ケタ以上の伸びを見せている。当社はコア事業の1つとして、ポリエステルの取り引きに力を入れてきたし、売り買い双方のお客をよく存じ上げている。
 ポリエステル・チップでは売り買いの「場貸し」を行い、プレーヤーになるわけではない。価格変動が激しい中で、売り手の情報を迅速に伝え、買い手と瞬時に交渉ができるようにする。プレーヤーにとっては、グローバルな取り引きが効率よくできるだろう。お客と一緒に考えながら対応していけばうまくいくと思う。

━総合商社の機能もこれから変わっていきますね。

eコマースが急成長している中で、総合商社としてどう対応し、生き残っていくかはわれわれにとって重要な課題だ。
 だが、商売というのは、売りと買いだけで成り立つものではない。その間には、モノをどう運ぶかといった輸送の問題があるし、金銭の受け渡しもある。相手のこと、業界全体の動きや、内外のさまざまな情報などをしっかりつかんでいないといけない。実際に取引するとなると、そういったものが大事でこれはむしろ商社機能の1つとしても重要なものだ。

 商社というところは、そういった目に見えないところでいろいろな役割、機能を果たしている。それはeコマースの時代にも必要と思う。

━eコマースには汎用商品が向いているといわれます。

 いや、私は汎用商品だけでなく結構少量多品種にも向いていると思う。少量多品種というのは販売に人件費やコストがかかるが、eコマースを取り入れることで戦販コストを低減できる可能性があり戦略に変化をもたらす可能性がある。
 私たちも今までの仕事の延長線上で考えるのではなく、お客様のニーズをとらえ、うまくシフトしながら従来のやり方と共存していく道を探っていきたい。

━そういった機能をどう生かしていくかになりますね。

 輸入する場合、船の手配、陸揚げや通関許可申請が必要だ。さらに輸送経路、通関手続き、国内輸送にしても化審法、労安法、消防法その他いろいろな法律上の手続きが必要だ。もしそれに不備があった場合はやり直さないといけない。売った場合は代金の回収はできるのか。中には戦略物資だったり、相手国の同意が必要な商品もある。相手のことがわからずに売り買いすることの不安はどの企業にもある筈だ。きちんと履行されればいいが、品質にクレームがつくことだって考えられる。
 商社を使えば、そういった面倒はみられる。便利だと思うし、それは商社機能の1つでもある。
 日本からの輸出にしても、輸入の場合と同様に手間ひまがかかって、反って非効率ということになりかねない。

━商社としても今までのやり方と違うと。

 eコマース環境下で商社に求められる機能はこれまで商社が目ざしてきた機能と質的に違うわけで、その意味では商社も変わらないといけない。戦略的に変化をもたせ、うまくネットの中で共存できる方法を考えていきたいと思っているところだ。

 

━日本でも定着するのかどうかです。

 日本はアメリカなどと社会構造が違うのでどうだろうか。今のeコマースのやり方をそのまま持ち込むことがどうかだ。第一、仕事の基盤が違う。輸送問題一つ考えたって決して単純ではない。アメリカでうまく行っていても、モデルがそのまま日本に当てはまるかどうか、検証はこれからだ。
 アメリカにしても、いまはeコマースが乱立しているが本当に収益が上がるのかどうか、実態が明らかになるのはこれからだ。私たちも地に足のついた取り組みをしていく必要があるのではないか。