『風化させたくないVEC設立の精神』

 

塩ビ工業・環境協会会長
(日本ソーダ工業会会長も兼務)

田代 圓 氏

 M.TASHIRO

 わが国の化学業界は、一般景気の回復の遅れに原料ナフサの急騰が加わったことで一段と厳しい局面に追い込まれている。しかも目を海外に転じると、欧米の巨大化学資本が相次いでアジア地域に市場基盤を構築しつつあり、国際生存競争の激化がいよいよ現実のものになろうとしている。さらには、地球環境問題の解決にこれまで以上のエネルギーを投入していく必要にも迫られている。塩ビ業界もそうした厳しい試練に遭遇、苦境からの脱出策を懸命に模索しているところだ。そこで、塩ビ工業・環境協会の田代圓会長(東ソー社長)に塩ビ産業の現状に対する見解と展望を聞いてみた。

━始めに、当面のPVCの需給の展望からお話いただきたい。国内の一般景気は回復基調をたどっていくと見られていますが、塩ビの場合はどう推移していくとお思いですか。

 先ず需要面について言えば、当面の秋需がどうなるかが一つのポイントであり、楽観はむろん禁物だ。先に塩ビ各社が実施した価格修正が秋需の足を引っ張るのではないかとの懸念もある。ただし、一般景気が回復基調にあるので、何とか前年の水準を確保していけるのではないかと期待している。  一方の供給面は、各社とも需要見合いの生産に徹しているので問題が発生する恐れはない。また、メーカー在庫もかなり低いレベルになっており、このため、余剰玉が市場に出回って需給を混乱させる心配もない。従って、当面の需給バランスには不安材料はないと言ってよい。

━肝心の収支バランスについてはどのように展望していますか。

 生憎この点については厳しい局面に立たされることになりそうだ。他の化学業界同様に原油とナフサの高騰によって収支バランスを大きく圧迫されるのが必至と言わざるを得ない。先ごろ値上げを認めていただいたものの、収支バランスは各社ともなお厳しい状況にあるだけに問題は深刻だ。最近のナフサの国際スポット相場の上昇率は原油のそれを上回っており、このままいくと、塩ビ各社とも再び大幅な逆ざや現象に悩まされることになる。

━一方、中長期の需給についてはどう展望していますか。

 アジア全体の需要がどうなるかが大きなポイントだが、私はアジア地域全域で捉えると塩ビの需要はまだまだ大きく伸びると見ている。中国による大量買い付けがコンスタントに続いていくかどうかははっきりしないものの、アセアン諸国における需要の拡大は大いに期待できる。アセアン各国の経済の回復はこれからが本番と言える。したがって、塩ビの市場もこれから大きく広がっていくと見てよい。この点は日本の塩ビ業界にとっても明るい材料ということになる。
  片や内需がどうなるかだが、塩ビの優れた品質と機能や経済性などがもっと広く関係各方面で認識されるようになれば、市場はまだまだ拡大していくはずだ。日本経済全体が再び後退していくとは思えず、また、塩ビ製品とのかかわりが大きい公共投資もすでにぎりぎりのところまで縮小していてこれからさらに減ることはないと見られている。したがって、一定の伸びは維持していくと見てよいと思う。

━安定成長の維持には、塩ビ業界全体が一致協力して解決していかねばならない課題もいくつかあると言えますが・・・・・。

 中長期にわたる共通の重要課題の一つには、環境問題に対する適切な対応が挙げられる。具体的には、各種塩ビ製品の安全性に関する正確な情報と知見のより効果的な発信・伝達とリサイクル活動のより積極的な展開の2点に集約できる。
 前者に関して言えば、塩ビが十分な衛生・安全性を有している点を消費者や需要業界に広く知ってもらうために、どういった内容のデータや情報をどのようにして関係筋に伝えるかをさらに工夫していく必要があるように思う。
 もっとも、内分泌かく乱作用の問題などは、化学工業全体が大きく係わりを持つものなので日本化学工業協会、さらには国際化学工業協会協議会(ICCA)全体で機敏かつ的確に対応していく必要がある。ついては、塩ビ環境・工業協会もそれらの団体の構成メンバーの一員として、様々な対応策を積極的に提案していくようにもしたい。
 片やリサイクルについては、これまで通産省や関係業界などの協力も得て取り組んできた様々なリサイクル技術の開発が順調に進み、逐次、実証運転の段階にきている。これらを実用化のレベルまで少しでも早く持っていくことが次の段階の大きな課題ということになる。また、廃棄物全体の効率のよいリサイクルシステムの構築についても地方自治体や関係業界と密接に連携を取りつつ研究開発を進めていくことが大切と考えている。
 環境問題以外の当面の共通課題の一つとしては、商慣行のもう一段の改善が挙げられる。最近は需要業界や流通業界の理解も進み、徐々に成果が上がりつつあるが、全体で言えば達成度はまだ十分でない。海外に比較すれば日本はかなり遅れている。厳しい国際生存競争を生き抜いていくには、引き続き粘り強く需要家を説得して一日も早く国際的な整合性に富んだシステムに改めていかなければならない。

━ところで、塩ビ産業の場合は、か性ソーダと塩素とのインバランスの問題が大きな発展阻害要因だと指摘する声があります。田代さんの見解はいかがですか。

 クロル・アルカリのインバランスの問題をどう捉えるかは人によってあるいは企業によって意見が異なる。どう対応していくべきかについても様々な考え方がある。これはある意味では当然のことと言える。したがって、ここで私の見解を述べるのは適切でない。  ただし、EDCの輸入数量がすでに年間50万トンから70万トンの規模に達していること、またVCMの年間輸出比率がPVCを合わせると40%にもおよんでいること、さらにはか性ソーダの輸出も急速に増えて年60数万トンとなっていること−−等、最近特に顕著になってきた国際需給面の現象はきちんと念頭に置いていく必要があるように思う。  要は、厳しくなる一方の国際競争を切り抜けていくためのコスト競争力をどうやってつけていくかだ。日本の場合は、塩のコストもエネルギーコストもエチレンのコストも欧米に比べてかなり高い。しかも設備規模が小さい。つまり、日本の塩ビ業界は様々な要因からコスト面で大きなハンディキャップを負っているわけで、それを克服していくにはよほどの工夫と努力が必要となる。しかしその実現に当たっては、それぞれが各自の体質・体力をしっかり念頭に置いて独自に最適の方法を見出していくほかない。

━そういった問題の存在も念頭に置いて、VECの会長として果たしていくべき最大の使命は何だと考えていますか。

 一口で表せば、VECの前会長であり信越化学の社長でもある金川さんを中心に塩ビメーカーが一致協力していまのVECを作った時の精神を風化させないこと、この一言に尽きる。国際環境の変化をきちんと見据えての危機意識と自己改革の精神を皆が持ち続けることに少しでも寄与していくようにしたい。

2000.10.24掲載