━欧米諸国の受け止め方はいかがでしょうか。 |
警戒や注意は必要だが、これまでのところ、直ちに何らかの措置をとらなければならない問題はないというのが大方の認識ですね。したがって、全体に動揺はないようです。ちなみにこれまでわが国の関係省庁も、直ぐに新たな規制などの措置を講じる必要はないとの見解を取っています。 |
━ご指摘のような科学的な対応には、国際的なコンセンサスによる試験法の確立が急務と言えますが…。 |
そうですね。このため現在は、日本、米国、ECの3極がOECDベースでテストガイドラインの確立に取り組んでいるところです。子宮増殖アッセイ法、ハーシュバーガーアッセイ法、改良28日間反復投与試験法などの開発を目指した活動が着実に進展しています。 |
━一方、環境庁がこれまで進めてきた対策についても簡単にご紹介いただけますか。 |
私達は、エンドクリン問題に関する環境庁の当面の最優先課題は、環境中に内分泌かく乱作用物質がどのていど存在しているか、また、環境中の挙動がどうかといった実態をできるだけ詳しく調べる中で、これらの物質が人や野生生物に何らかの影響をおよぼす心配がないかどうかを関係者みんなで究明していくのに必要な材料を揃えることにあると考えています。98年5月にまとめた環境庁の基本的な対応方針「環境ホルモン戦略計画SPEED’98」ではそのへんも詳しく紹介しています。
環境庁では、こうした考えに沿って97年3月以降、専門家グループの研究班による内外の科学的文献のレビューや全国一斉モニタリングなどを実施してきました。また、海外の情報をできるだけ多く得ることと、関係者はむろんのこと広く一般の市民の皆さんにもこの問題の実態をよく理解してもらうことを目的に、98年と99年の二回にわたって国際シンポジウムも開催しました。そうしたこともあってか、最近は一般市民の間にも、エンドクリン問題は科学的にとらえて論議していくべき性質のものだとの認識がずいぶん広がってきたように思います。 |
━今後はどういった施策を展開していく考えですか。 |
当面の行政課題を一言で表すと、”「SPEED’98」に基づいて科学的知見を早急に収集するための調査研究等の実施に一段と力を入れる”ということになります。もう少し詳しく申し上げれば、(1)人や生態系の影響調査と実験動物を用いた作用メカニズム調査(2)リスク評価と適正管理技術の開発(3)農薬を対象とした内分泌かく乱作用に係わる調査(4)国立環境研究所による新たな計測手法の研究や環境中の動態解明、さらには環境影響の評価などの推進−−といったことが具体的なテーマとして挙げられ、本年度からの予算にも反映されています。 |
━「SPEED’98」の中では内分泌かく乱作用を有すると疑われる物質として67種の化学物質がリストアップされていますが、この再点検も計画されているようですね。 |
さきほど申し上げた(2)のテーマの一つとして実行していくことにしています。67物質のうち生産・使用されていない27程度の物質を除く約40物質を対象として、人の健康や野生生物の生態系におよぼす影響に関するデータを集めて有害性の評価を行うというのが計画の概要です。期間は今年度から2002年度末までの3年を予定しています。世の中には、67物質全てが危ないと受け止めている向きが少なくないようですが、それは誤りです。これからの専門家グループの検討結果を十分に尊重して判断していただきたいと思います。
なお、初年度は、有害性を示唆する文献が存在し、かつ環境中の濃度も高いもの4物質と、現在規制が行われていない6物質の合計10物質をまず対象として検討をスタートしたいと考えています。これらは比較的早い時期に見解がまとめられるのではないでしょうか。スチレンダイマーやトリマーもその可能性を持っています。それというのも、これまで関係各省庁が様々な調査をしてきた結果、有害性を否定するデータが蓄積されてきているからです。 |
━しかし、先に東京都では問題があるかのような発表をしましたが…。 |
都の発表は都の衛生研究所の研究も考慮したものと思います。しかし、都の研究は、スチレンダイマーやトリマーの有害性を直接的に示したものではありません。しかも一つの研究結果であるわけですから、科学的な評価を受けるためには、きちんとした学術論文にして学界に発表される必要があります。それがないと、科学的な論議が進まず、いたずらに不安をあおることになりかねません。 |
━最後に、化学業界に対する注文もお聞きしたい。 |
繰り返しになりますが、この問題はあくまでも科学的に解明していくべき性格のものです。それだけに化学業界も、科学的にきちんと論議でき、問題提起に対して的確に対応していける専門家をできるだけ多く養成していくことが大切なのではないではないでしょうか。 |