競争力強化への取り組みと課題

 

出光石油化学 社長

山本 侑 氏

S.YAMAMOTO

「コモディティ事業は収益を改善し、高機能製品事業はさらに拡充・強化していく」と山本社長。国際的な大競争時代を迎えて、技術に立脚した“価値創造型企業”を目指す、と目標は明確だ。
 千葉、徳山2つのコンビナートは親会社、出光興産の製油所と隣接、原料から用役まで余すところなく有効活用しあっている。
「コンビナート内のグループ各社や他のコンビナート会社とも情報ネットワークの活用等を通じて連携し、一層総合力を高めていきたい」と語る言葉には力がこもる。

━石化製品の生産、かなり好調のようですね。現状および今後をどう見ますか。

 需要は確かに増えているが、内需の伸びは依然として低く、アジア経済が予想以上のスピードで回復していること、中国向けも大幅に増加していること等、輸出が大きく貢献しているというのが実情だ。
 しかし、一方原油及びナフサの価格は、昨年末頃に若干落着く気配を見せたが、中東、アジア地区の新設プラント需要が強く、年明け後は、急激に上がり始めた。高値圏が続くようなことになれば収益は大幅に圧迫され、需要にも影響が出てくるのではないかと危惧している。OPEC諸国の動向、国際市場の思惑、アジア各国の経成長等様々な要因が複雑に絡み合っており、今後の価格動向はいぜん不透明だ。

━欧米の大手メーカーは積極的にアライアンスに動いていますが。

 欧米は日本とは企業経営観、労務慣行等が異なり、非常にドライにアライアンスを進めている。
 コスト競争力を高めるには、さまざまな要素があるが、系列当りの能力は大きく影響すると考えられる。アライアンスを行ったものの、系列能力が数万トンと小規模なものがあったり、老朽化している装置があったり、或いは製造基地が各国に分散していると、見かけ上生産能力は大きくなっても国際競争力が強化されるとは思はない。
 しかしながら、低コスト原料の確保が容易な中東やカナダ、或いはマーケットに近いシンガポール、台湾で、続々と計画されている新設装置は大型系列で設計されており、明らかにコスト競争力を持っている。

━出光石油化学はどんな戦略を進めているのですか。

 わが社はコモディティ事業の収益の改善と高機能製品事業の拡充・強化を両輪に進めており、非常に明確だ。
 芳香族、合成樹脂などのコモディティ事業は石油系化学会社の強みを生かし、さらに徹底した合理化によりコスト競争力を高め、国際市況の変動に耐えうる経営体質を作り上げていく。
 例えば、ポリプロピレン事業では、興産との間でプロピレンを無駄なく徹底して活用するとともに系列ごとの生産のすみ分け、グレードの統廃合等により、系列当りの潜在能力は平均13万トンと、国内最大級だ。
 また、ポリスチレン事業では、トクヤマ工場の小規模系列の装置を廃棄し千葉工場のHIグレードに集中するとともに、大日本インキ化学工業から、四日市で最新鋭の10万トン装置で生産されたGPグレードの供給を受けており、お互いの強みを生かし合っている。物流面でも約94%が直送となっており、バルクコンテナーも1000台を超え、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネートで大型輸送を進めている。
 高機能製品事業は、特殊化成品、高機能性樹脂、加工製品の3事業を柱としており、技術に立脚した「価値創造型企業」を目指している。
 このうち、特殊化成品事業は、α-オレフィン、MEK,アクリル酸及びエステル等に自社技術の8主要製品があるが、過去にはいろいろ苦労はあったものの、その苦労も実を結びつつあり、事業は起動に乗って来た。
 高機能性樹脂事業は、ポリカーボネート(PC)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)が核で、それぞれ事業の発展ステージが違うが、徹底して育成・深耕していく。
 PCは、約30年の歴史があり、この間蓄積してきた技術力及び販売力を生かして、台湾プラスチックと15万トンの工場を建設し、グローバルな事業展開を加速していく。
 PPSは、コンパクトな連続重合プロセスなため国内外企業の関心が非常に高く、複数の企業から引き合いが来ており、現在事業化に向けて計画を詰めているところだ。
 加工製品事業は、マーケットに近い分野なので、差別化技術をベースに、柔軟かつ迅速に対応していく必要がある。そこで、加工製品事業、プロティンプラスチック事業、バイオケミカル事業を分離し、「出光ユニテック」と「出光テクノファイン」を新しく作った。自主独立の起業家精神を持ったレベルの高い専門集団として、今後の発展を期待している。

━工場は千葉、徳山とも出光興産の製油所と一体になっていますが。

 両工場とも出光興産の製油所と隣接し完全にインテグレートしている。このため例えば原料にしても、需給動向等状況に応じてナフサだけでなく軽質原油、重質NGL、LPGなどフレキシブルに最適なものを選択して利用できる。副製品、余剰留分、燃料ガス・蒸気等の用役も相互に有効利用を図っており、さらにバース、タンク等の設備も共用し、効率の高い製造体制を築いているが、チャレンジすべき課題は多くあり、今後も積極的に取り組んでいく。

━情報化も進めていますね。

 ドイツ SAP社のR/3を導入するに当たって、同社のシステムに合わせるため日常業務の仕組みから変えた。社内外の関係先の説得、システム構築のために数年かかったが、生産、購買、物流、販売の基幹業務についてネットワークシステムを完成した。今後、構築したネットワークをフルに活用し、新しいタイプの情報化企業を目指していく。

━競争力のある体制ができあがりつつあると・・・。

 いや、まだ十分とはいえない。もっとスピードアップして進めていく必要がある。
徳山はエチレンセンターとして、コンビナートの各社と密接に連携し、原料、副製品、用役など相互にやりとりしているが、今後は情報ネットワークの活用等を通じて、この関係をさらに強めコンビナート全体の総合力を高めていきたい。また、千葉はエチレンから誘導品まで自己完結型ではあるが、隣接3センターとパイプで繋がっており、さまざまな可能性が検討できると思う。
 さきほども述べたが、出光興産の製油所と一体的となったケミカルファイナリーを進め、徹底した合理化によりコスト競争力を高めると共に、高機能製品事業は安定収益事業として拡充・強化し、技術に立脚した価値創造型企業を目指していくつもりだ。