ポリプラスチックス社長・後藤 昇氏
 
 「エンジニアリング・プラスチック その課題と展望」

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 「顧客重視の経営が基本」と後藤社長。33年という長い工場勤務を経て、この春、社長に就任した。ポリアセタール1種類だった製品は、今ではPBTやPPSなど5樹脂を持つ総合エンプラメーカーに成長。海外展開も活発で、売上高、従業員はすでに海外の方が国内を上回っている。原料高や円高対策など課題は多いが、得意の技術力でどう克服していくか。2012年には創立50周年を迎える。「それまでに、もっと業績を上げておかないと」と張り切る。

—工場勤務が長かったそうですね。

 後藤 入社したのが1974年で、富士工場に33年いた。生産現場に20年以上、工場内には生産技術センターがあり、そこにも約10年いた。富士山が近いので、毎日、富士山を見ながら仕事をしていた。

—会社はその後ずい分変わりました。現状を伺いましょう。

 後藤 当社はこれまで、エンプラ専業メーカーとして事業を伸ばしてきた。入社当時は、ポリアセタールだけだったが、今はほかにPBT(ポリブチレンテレフタレート)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、液晶ポリマーのLCP、それに2年前から始めたCOC(環状オレフィン・コポリマー)と5樹脂に増えた。
 
 主力のポリアセタールは、富士工場だけでなく、台湾、マレーシア、それに新たに中国の南通にも工場が完成し、生産規模は約20万トンに増えた。一方、販売拠点も東南アジアや中国内の各地に開設し、販売、サービスのネットワークを構築してきた。アジア地域を網羅するネットワークがほぼでき上がっている。

—業績も順調に伸びてきたようです。

 後藤 2007年度決算でいうと、売上高1,140億円、営業利益130億円、純利益は66億円で、いずれも過去最高だった。収益率も比較的高く、毎年10%を超えている。ただ、最近は原燃料高に加えて為替が急激な円高となったため、収益を圧迫している。
 
 当社はこれまで積極的に海外ビジネスを展開してきたため、海外売上高比率が高く50%を超えている。そのため円高の影響は大きくなる。原燃料価格も原油価格の異常な高騰でコストが大幅に上昇しているが、製品価格への転嫁が厳しい状況にあり、今期は減益の予想だ。

—中国のポリアセタール工場は、順調に稼動していますか。

 後藤 江蘇省南通市に当社と三菱ガス化学、韓国エンジニアリングプラスチックス、米国・チコナの4社で合弁会社を設立し、年産6万トンの工場を完成している。05年10月から運転に入っているが操業は順調で、現在ほぼフル稼働している。当社は合弁会社に71%出資しているのでその分の4万トン強を引き取り、主に現地のローカルメーカーおよび日系メーカーに納入している。出荷も順調だ。

 中国市場は、戦略的にも重要だし、生産拠点だけでなく販売拠点もしっかり増やしていきたい。昨年は華南地区の広州、深せん、中国西南地区の重慶に支店を開設した。また秋には上海にテクニカル・ソリューション・センターを立ち上げ、解析評価や材料設計など、顧客への技術サポートを中心に活動を展開している。

—COCというのは新しい樹脂ですが、市場開拓の見通しは。

 後藤 2年前にダイセルと共同でチコナから買収した事業で、ドイツのデュッセルドルフの近くに年産3万トンの工場を持っている。現在、操業度は3分の1程度だが、堅調に販売が増加しており、将来に期待している。透明性が高く、光学特性に優れ、耐熱性や高流動性など優れた特性を持つ樹脂だ。
 
 将来、可能性の高い樹脂なので、研究・販売にリソースをつぎ込み、早く黒字化し柱に育てていきたい。光学レンズ、プリズムのほか液晶テレビの反射板とか導光板、包装材などの分野に用途が期待できる。光学技術などの分野は、欧州より日本の方が得意だ。

—将来性という点では、PPS樹脂も期待できるのでは。

 後藤 その通りだ。クレハさんと事業提携し、ポリマーはクレハ、私たちはコンパウンドといったように垂直分業している。用途はやはり自動車分野が大きい。世界的に見てもPPSは毎年10%近い成長を見せている。今後に期待できる樹脂だ。

—海外ビジネスにはこれからも力を入れていくと。

 後藤 自動車、家電といった需要先が海外展開していることもあり、成長の基軸は海外となる。当社は売上からいってもすでに海外の方が比率が高く、社員の数も今では全社員1500人のうち、50%以上が外国籍社員となってきている。
 
 これからも海外の成長に伴って現地ローカルの比率はさらに高くなると思う。当社は多国籍企業、つまり「マルチナショナルカンパニー」として、各国のビジネス文化を尊重しながら、そういった人たちと一緒に会社を発展させていくようにしたい。

—新社長として、今後の課題にどんなことがあげられますか。

 後藤 当社は2012年に創立50周年を迎えるので、2012年を最終年度とする次期中期経営計画には、いい数字がかかげられるようにしたい。売上は数年内に1500億円以上を目指すが、そのためには今年は1200億円を目標にがんばりたい。
 
 素材メーカーとしては、やはり技術が大事だ。今後も顧客の多様なニーズに対応し、貢献できるように絶えず技術革新をはからなければならない。技術の力で高付加価値製品の比率を上げ収益構造を抜本的に変えて継続的な成長を達成できる会社にしたい。
 
 生産面での課題といえば、国内・海外とも需要に対応した生産能力の拡大が課題となる。増設規模、立地、タイミングなどについて、詳細な検討を行なっているところだ。
 
 海外事業では、中国や東南アジア、アセアンなどでのさらなる成長を目指して、日系メーカーに対するフォロー体制の強化とともに、ローカル市場の開拓が大きな課題だ。
 
 当社は今回の役員異動で、経営陣が若返った。新しい発想で今後のあり方や戦略を考え、環境変化に対応して会社自身も新しく生まれ変わっていきたい。現場とのコミュニケーションをよくし、全社一体となった経営を進める。
 
 社員には、お客から「すごい」といわれる会社よりも、「信頼できる」といわれる会社になろうと呼びかけている。きめ細かいサービスを提供し満足していただく。「顧客重視の経営」こそ当社の基本理念だからだ。